オーソン・ウエルズが当時の妻リタ・ヘイワースに、運命の女=ファム・ファタールを演じさせたミステリー映画。日本初公開は製作から30年を経た1977年で、こちらもその時以来の再見となった。
映画全体から見ると、セントラルパーク→船旅→カリブ→法廷→サンフランシスコと目まぐるしく変化する舞台、奇妙な人間関係、単純なはずなのに妙に分かりにくいストーリー、凝り過ぎたカメラワーク…と、問題が多い。
これらは、公開前に大幅にカットされたせいもあるのだろうが、ウエルズは本当に天才なのかそれとも二流の監督なのかと判断に苦しむような印象を受ける。
ところが細部に目を移すと、リタの妖艶な美しさ、不思議な空間としての水族館、雑然としたチャイナタウン、そしてラストに登場する遊園地のミラーハウス…など、見るべきシーンや不思議な魅力が多いから困る。とにかく妙な映画なのだ。
都筑道夫が『サタデイ・ナイト・ムービー』の中で「細部に凝ったウエルズ」として印象を書いている。
「ウエルズは早どり安あがりの映画にするつもりだったらしい。だが、当時ウエルズ夫人だったリタ・ヘイワースを主役につかう、という条件を出資者が出してきたので、方針をかえなければならなくなった。
オーソン・ウェルズは、はたから口を出されて、気がすすまなくなると、部分部分にやたら凝って、全体をなおざりにする癖がある。このときも、リタの大写しがひとつもない映画をつくって、出資者をあわてさせた。けっきょくウエルズが折れて、クローズアップを取りたしたものを、ヴェテラン編集者がどうやら筋がわかるようにして、公開した」
妙な映画という印象を受けるのはそうした裏事情のせいなのだろうか。