発行人日記

図書出版 のぶ工房の発行人の日々です。
本をつくる話、映画や博物館、美術館やコンサートの話など。

「聖☆おにいさん」試写会

2013年04月23日 | 映画
 西鉄ホール。
「目覚めた人、ブッダ。
 神の子、イエス。」
 地球に手をあてる神々しい(神と仏ですから)2人の画面からこの映画ははじまる。まるでK福のK学の映画のようではないか(見たことないけど)。
 彼らを一応紹介したあとは、衆生を救済するような仕事に追われることのない美しく平和な日本の四季の中で、リゾートする2人を延々と追い続ける映画である。
 ブッダさんとイエスさんは、東京立川の風呂なしアパートに長期滞在中。暮らしぶりは、のんびりまったり慎ましやか。風貌はTシャツにジーンズの若い外国人。聖☆おにいさん、というわけ。
 原作はコミックらしいけど、読んでいない。
 アパートの窓を開けて寝てると、鳥や小動物が集まってきて涅槃の様相を呈し、遊園地の絶叫系アトラクションでお経を唱えて同乗の人々を恐怖のどん底に陥れ、泳ぐのが嫌だけど意を決して泳ごうとした途端、プールの水が左右に分かれ、徳の高いことを言ってしまうと後光が差し、自己犠牲っぽいことを言ってしまうと、茨冠の棘が自らを刺して流血してしまう。場合によっては茨冠は花を咲かせ、ペットボトルの水がワインになってしまう。
 神仏ギャグがいっぱい。近所の小学生に攻撃されたりするものの、基本、やさしくて、いい人ばかりが出てくる心温まる映画で、何だか疲れがとれる。ブッダもイエスもお互いを思いやりながら過ごしている。
 ご家族で安心して鑑賞できます。1時間半のアニメ作品。色彩設計も私の好み。紫とグリーン系が秀逸。
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インプレッション・トレーニング、ですって?

2013年04月12日 | 物見遊山
 イムズホール。
 『人は0.5秒で選ばれる! 重田みゆき インプレッショントレーニング』に行く。
 ご招待。
 重田みゆきさんって、テレビに出てる有名な人らしいけど、見たことはない。
 ただ、手鏡を持って来てください、と言われただけ。さて、今日の体験は身になってくれるだろうか。
 ひねくれ者の私は、とりあえず講師が「働くということは、はたをらくにするということです」とか、「長い棒と短い棒が支え合って人という字になるのです」などと言い出すと、寝ることにしている。どっかで誰かが言ってたような、ほんらいの語源と違う駄洒落や、ほんらいの字源と違うこじつけを言い出す人の話が面白かった試しがないからである。給料をもらってる会社の研修でのお話なら、社員のお仕事として聞くけどね。
 元フライトアテンダントで、やはりフライトアテンダントや接客のトレーニングを行っている40代の女性、というと、ぴっちり結い上げた髪と、肩パッド入りのスーツ、襟元にど派手なブローチかコサージュ、あるいは派手なイヤリングな感じを想像してたんだけど、出て来た重田みゆきさんは、鮮やかなターコイズブルーの、無地だけど遊び着っぽくもある半袖ワンピース姿で、若いバラエティ系のタレントさん的な風貌だった。
 いきなり「いい笑顔なしに、何か人にしてもらおうなんて甘~いっ!!」と、きたもんだ。ともかく二週間続けてください。無理にでも笑ってたら幸せがやってきます。他人に与える印象と、自分自身が笑顔することで得られる自分の脳へのフィードバック。ともかく笑うのだと。まあ細かいところは記憶違いがあるかもしれないけど、そんな感じで。
 すごい説得力でぐいぐいと二時間進んだ。
 彼女の波瀾万丈な人生体験談をまじえながら、ひたすら、チャーミングな笑顔についてのワークショップとレクチャーが続いたのである。彼女の指導する顔のマッサージも、さきごろ亡くなった田中宥久子さんの顔筋マッサージに似て非なる、笑顔のためのマッサージ。シワをなくすとか美しくなるとかむくみを取るとかの効果の話ではなく、ともかく笑顔とはっきりした発音のためのマッサージ。第一印象とは、何より先に、魅力的な笑顔。それ以外の話は省略されていた。
 誰もに二時間のレクチャーをするのだから、誰でもできる、二時間でも成果があがる、一番大切な、笑顔に特化した話だけ。たぶん、しぐさとか服装だとか話し方など、時間が長くなればいろいろなことが付け加えられるのだろうけど、ともかく二時間なら、何よりもまず笑顔。ほかのことはほとんどなく、ともかく笑顔。実に正しく、合理的なプログラムに思えた。
 なるほどなー。
 でも、それって、販売の人たちだったら得意なことで、誰でも普通にやってることじゃないかしら? そんなことを考えながら、翌日、用事があって駅に行き、名店街の土産物売り場でからし明太を売っているところを歩いたら、たくさんの女性販売員がお客さんに声を掛けているのだけど、誰一人として笑顔ではない。笑顔が禁じられているのだろうかと思ったくらい。
 作り笑いじゃなくて、自分の脳によいフィードバックを与えるために、いいかえれば自分自身が幸せになるために、微笑んでいるのだと思えば、笑えないかしら?

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ボーコクのヤカラ

2013年04月11日 | 日記
 とまあ、いきなり、右翼街宣車のラウドスピーカからよく聞かれる演説用語で、罵倒語が出た。まったく穏やかな響きはないが、これは時折発行人の頭に微かに浮かんでは消えることばである。
「亡国の輩」。

 一昨年の震災以来、美しい漁港や田園や森の風景を見るにつけ、復興の手のつけようのない、荒れるまま人が立ち入ることができない地域、人の住めない地域が存在することを思い出し、晴れ晴れした気分になれないでいる。福島第一原発は冷温停止というものの、それは単なる平衡状態に過ぎず、汚染水はたまりつづけ、ときに漏れ出し、廃炉の道筋さえ立たないまま、今のこの瞬間も作業者の生命を削りながら膨大な費用を喰い続け、いつ、差し迫った危機に逆戻りしてもおかしくない状態が続いていて、私たちはそのための税金を支払い続けないといけないのだ。その上、生活の場から引き剥がされた人々や、汚染におびえながらも周辺地域で暮らす人々がおおぜいいることを考えると胸が痛む。
 円安は、輸出産業を後押ししているが、同時に化石燃料の価格を押し上げ、電力コストを上げている。そのことを、原子力発電所再稼働への根拠としようとする動きがあるが、再び福島第一のようなことが別の場所で起きたときに、日本経済はそれを支えられるのか。原発再稼働は、その場しのぎの勝ち目のない博打のようなものではないのか。安全に事故なく地震も起きず稼働できたところで必ず出る行き場のない高レベル放射性廃棄物をどうするのだ。
 この状況を一体全体誰がつくったのか。
 注意しなければならないのは、国旗を掲げ国歌を歌って愛国者を自称している人々の中にもいる亡国の輩だと思う。その場しのぎの勝ち目のない博打で、自分だけは儲かり自分の身内だけは傷つかないと思っている人々がたぶんいて、50年後、100年後はおろか、5年先の日本列島とそこに住む人々のことなど考えちゃいないのだ。
 誰が美しくない国に住みたいだろうか。誰が弱い国、自立しない国の国民になりたいだろうか。
 食糧自給率を結果として下げる政策をとる国に、どんな強さがあるのだろうか。海上封鎖されるだけで、即座に滅亡する脆弱な国づくりに向かってはいないか。
 一体何が亡国に向かわせるものなのか。それをちゃんと考え注意深く見分けて、きちんと投票に行かないと、私自身も、後の人々から亡国の輩と呼ばれてしまうことになるだろう。
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舟を編む 試写会

2013年04月04日 | 映画
「舟を編む」試写会。都久志会館。

 馬締光也は、白シャツのボタンをいつもぴっちり上まで留めた口べたなメガネ男で大学では言語学を修めていた。出版社のダメ営業マンだったところを、辞書編集にスカウトされてから、その辞書が上梓されるまでのお話。松田龍平が、平成男とはにわかには信じ難いレトロかつアナクロな辞書編集者を演じている。
 初校、二校、三校……のゴム印は私の職場にもある。私の作る本も、なかなかにロングスパンであるが、辞書を作る作業に比べれば、作業期間は、はるかに短い。辞書を作る作業は十年を越える長丁場となるのだ。従って、毎年決算が行われる企業会計とは相容れない性質がある。会計的には研究開発費みたいに、費用発生時に一般管理費として処理されるのかな。ともかく、本を出すまでに時間がかかるので、余裕のある出版社ではないとつくれない。映画のなかでは辞書編纂部門のリストラ話も浮上する。逆から言えば、辞書が出せる出版社というのは、ステイタスなのである。
「用例採集」といって、実際に使われていることばを、カードで集める作業が面白かった。ラジオを聞きながら、人と話しながら、ファストフードでハンバーガーを食べながら、気になったことば、新しいことばの用法を見つけたら「用例採集」と言ってメモをとりはじめるのだ。
 そういうふうにして辞書の解説や用例をみると、なかなかに味わい深いものである。
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