発行人日記

図書出版 のぶ工房の発行人の日々です。
本をつくる話、映画や博物館、美術館やコンサートの話など。

やがて3月が去る/DVD「日本以外全部沈没」ほか

2014年03月27日 | 映画
◆慌ただしく3月が終わる。
◆3月の映画は「LEGOムービー」「神様のカルテ2」、DVDで「ロボジー」「日本以外全部沈没」それから公開時に劇場で観たけど「スカイ・クロラ」。映画はしっかり観てる。
◆「日本以外全部沈没」は、「日本沈没」のパロディーで、筒井康隆原作。日本以外が全部沈没してしまい、世界中のVIPが日本列島に押し寄せ、物価は上昇し、大騒ぎになる。2006年の映画だけど、特撮の低予算ぶりが60~70年代の懐かしいテレビ番組を思い出させる。オチは想像通りであったが、実のところ日本以外が全部沈没すると、沈んだところの原発が世界中を汚染して地球に人など住めなくなってしまうんだよね。
◆ところで2月の映画で感想書いてないのは「偉大なるしゅららぼん」(冒頭に出た、その町の支配者の名前のついた事業所の看板だらけの風景に、A元首相の地元の町を少し思い出した)、「ジョバンニの島」(戦争と国の都合に翻弄される家族の物語。キャラクターに最後まで目が慣れなかった。アニメで客を呼ぼうと本気で考えるなら可愛くなきゃ)。
◆福岡市内のスーパーで、巻き寿司いなり寿司の小さなセットを「ハーフ助六」と書いて売ってた。半分サイズの助六ということなのだろうけど、アニメ「ぜんまいざむらい」に出てくる「ピエール」というキャラクターを思い出す。
◆前原の蒲鉾店でギョロッケを買う。魚のすり身にパン粉をつけて揚げたものである。魚コロッケでギョロッケなのだが形態はコロッケよりもうどんに乗っている丸天に近い平たい食べ物である。これはサンドイッチにする。ホットサンド専用の道具も持っているけど、もっと簡単に作る。耳のついたパンでトーストを作り、半分に切り、切り口から調理バサミを入れて袋状にして、具を入れていくのである。普通のサンドイッチと違って押さえておかなくてもバラバラにならないし、なんといっても常備してある食パンで簡単に作れる。5枚切り推奨だけど6枚切りでもなんとかなる。内側にバターなりマヨネーズなりを塗って、好きなものを入れる。今回はソースを塗ったギョロッケと、マヨネーズで和えたスライスオニオン。おいしいのよ。
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銀の匙 理不尽な現実

2014年03月03日 | 映画
◆「銀の匙」試写会。都久志会館。
 北海道の農業高校のお話。
 少年向け雑誌で大ヒットしたコミックが原作の映画で、実際すごく観てて楽しいのだが、ファンタジーの要素が少ないという点で、近年のヒット作とは全く異なる。死神ノートを手にした少年とか、悪魔の実の能力者とか、スポーツの天才とか、未来から来たネコ型ロボットは登場しない。
 主人公のメガネ男子八軒くんは、中高一貫の進学校からドロップアウトして、不仲な家族から逃げるように全寮制の農業高校に入学した。都市のサラリーマン家庭に育った彼にはびっくりすることばかりだ。これは八軒くんの成長物語であると同時に、私達を北の農業高校に招待してくれる映画である。
 主人公の八軒くんを演じる中村健人はジャニーズの人らしい。彼がほのかな恋心を抱くアキちゃんの広瀬アリスちゃんがカワイイ。Sっけたっぷりの女教師、富士先生役の吹石一恵も、馬術部顧問の先生中村獅童もぴったりはまっている。校長役の上島竜兵は、いい味出てる。

◆農業とわたくし
 高校生くらいまでは、二学期の中間試験の後の日曜は、稲こぎの手伝いをしていた。その時期だけ父方の田の仕事をしていたのである。両親は田の仕事はほかの季節も手伝い、自分の家で食べる分くらいの米はそれで得ていた。父方ファミリーは、戦前は柑橘農園をしていて、ネーブルオレンジも当時から栽培していた。砂糖が統制されると、祖父はさっそく小規模な自家用だが、養蜂で蜂蜜の甘味を得たという。私が子供の頃は、本家から離れた海沿いの土地にある自宅の周囲はミカン園だった。私がまだ小さいころ祖父が亡くなってミカン園は終わった。おそらく祖父の代で農家は終了し、自宅用のみの水稲と家庭菜園となったのだと思う。
 稲作の手伝いを私は完全に面白がっていたが、そういえば姉もイトコたちも手伝ったりはしてなかった。当時農業改良普及所長という県の役人をしていた伯父が、冗談かどうか知らないが良い農家を見繕って嫁がせるようなことを言い、それを聞いたからかどうか、母は、進学先から郷里に戻った私に田の仕事をさせようとはしなかった。数年して伯父は亡くなり、父方ファミリーは水稲栽培から完全に離れ、我が家的に食料自給率は大幅に低下した。
 母方の祖父母の家には農協関係の婦人雑誌『家の光』というのが置いてあった。こちらは母方の伯父(故人)の代までは農家だった。祖母が私にヤギ乳を飲ませようとして(当時は偏食児童だった)逃げ回った覚えがある。葉タバコの栽培をしていて、納屋でタバコの葉を干す匂いが好きだった。当時の『家の光』には、政治的、経済的な問題は、かなり省かれているというか、全然書いてないみたいな?と思った。食料自給率とか、農産物の自由化とか、日々新聞やテレビを賑わせているのにどういうことだろうか、これは、農家の嫁が舐められているからに違いないと、子供なりに思った。とんちんかんかも知れないけどね。(今はTPP問題など、政治的な記事にもページが割いてあるし、産直ショップやオーガニックについての記事、美輪明宏の人生相談もあり、なかなか楽しい雑誌である)

◆現実的
 物語の核心にも触れますが↓映画の話に戻りましょう。
 「銀の匙」八軒くんの同級生たちはほとんどが農家の子弟で、農業後継者としての自覚を持ってやってくる。全寮制であるため、なんとなく入学するという生徒は希有なのである。
 農業高校には現実があふれている。進学校の勉強というものは、すべてとはいわないが、かなりリアリティーから離れたバーチャルなものだと思えてくるくらい、現実的である。
 現実とはすなわち理不尽なものなのである。
 学校の敷地は広く、実習用の農場や設備が揃っている。
 産卵成績が悪いニワトリは即刻肉となる。乳の出の悪い牛もしかり。
 経済動物たる家畜に名前をつけては駄目だと同級生たちが言うのに、八軒くんは実習農場の子豚に名前をつけて成長を追ってしまう。
 この映画では、屠畜場の解体の見学シーンもでてくる。まったくもって現実的である。もちろん生徒は強制参加ではない。たぶん生易しくはない画面だがほとんどの人は許容範囲だろうな、という感じに編集されているので、皆さんもぜひ映画で見学を。可愛いブタさん牛さんトリさんと、食べているお肉は同じものなのだということは、人として知っておくべきことだ。
 見学した八軒くんは、名前をつけた豚が成長して出荷されるとき、夏休みの農場バイト代を使っての買い取りを申し出る。飼い続けるわけではない。食肉加工されたものを、である。その豚「豚丼」は、教師に×印をスプレーされ、間違いなく別口で送り返すよう依頼される。豚を見送る場面は切ないね。
 戻ってきた一頭の食肉、50キロあまりを、彼は、食品加工科の先輩に教えてもらってベーコンにする。大量の豚肉をタコ糸で巻いて燻すその画面は「喪の仕事」のように見える。そしてそれを学校の生徒や先生方とおいしくいただく。まさに理不尽の味だ。
「銀の匙」というタイトルは、その高校の食堂の入口に飾ってあって、時折校長が磨いている銀のスプーンにちなむ。銀の匙をくわえて生まれた子供は、一生食べるに困らないという言い伝えに基づくものだが、校長はそのことを八軒くんに話したあと「……そう願いたいものです」とつぶやく。農家に生まれたら食べるに困らないというわけではない現実がある。
 映画で銀の匙についての由来が説明されたそのあとに、親の経営する農場が倒産して離農し、高校も中退する同級生の話が出て来る。そういえば、バイト先農場の同級生の家から、隣家であるその同級生の家まで4キロあるのだが、その間に、昔に離農したと思しき別の廃屋の映像も画面に入る。
 親の仕事を尊敬し、中学を出る時点で後継者となる決意をしている子供たちに、食べるに困るというようなことが起きるということは何と理不尽なことか。
 友情、努力、勝利のテンプレートと、現代日本の農業の抱える諸問題を同時進行で見せてくれる映画であるなあ、と思いながら、帰宅したのでありました。
 
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