高校三年生ヒゲは授業が終わると、友達K君と隣のK大学に向かいました。
ブレハブ造りの将棋部部室をやっと見つけて、高校生は恐る恐る入った。
すると、部長らしい方が優しく手招きしてくれています。
直ぐに対局が始まり、後手ヒゲの指した2三歩に対して、何と『3四飛車』と、
ヨコ歩を取ってきた!?
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「 ワアア~ 」 驚きです。 まさに、ひげ初めての遭遇です。
長考したヒゲは、意を決して 『2五角』 と打って停まれない汽車に。
指しながら、ヒゲは感心しました。 「 さすがに学究の館や!? 」
「 こんな難しい定跡が登場するとは! 」 と思いました。
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当時の熊本市内の将棋会所では、絶対に見ることが無い戦法でした。
なにしろ一手一手の裏付けがないと、とても指せないからです。
だから、会所のオッちゃん達には手に負えません。
厳し過ぎる定跡だから、気晴らし目的のオヤジ将棋には不向きなハズです。
しかしながら、ヒゲには生涯で唯一の対局になるのです。
この戦法が成立するには、両対局者の “ 暗黙の同意 ” が必要だから。
そのたった一局の経験でも、ヒゲには宝物になったのです。
そして、2000年代の或る日。
先手AIマシン対M山八段の、相ヨコ歩取り戦がありました。
後手番の八段が、『7六飛車』と横歩を払った場面で、AIは『7七歩』と応えた!?
何だ! コレは? ・・・ M八段は、頭を抱えて長考に沈みます。
検討室のプロ棋士たちも、「 前代未聞の新手 」 だと騒ぎ出しました。
とにかく、自分の首を絞めるような棋理に反する手ですから、解説陣も考え込みます。
観ていたヒゲの脳裏に、なにやらムラムラと記憶がよみがえります。
まるで、海底の泥土に埋没していたUボートがコールされて、突然浮上し始め
海面にボッカリと登場するみたい!
そう、40数年前に勉強していたあの『7七歩』が、解説文と一緒に浮んだのです。
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もし、あの控え室にヒゲが居たとしたら ・・・・
7七歩を見て騒然とする控え室に、ひとりの老人が立ち上がり言い放った。
「 何だ、君たち! この手を知らないのかい?
45年位前に、芹沢八段はこの手がある事を予言していたんだよ! 」
そう! これか!! 孔子が言っていた事は。 
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【 学びて時に之を習う 亦(また)説(よろこ)ばしからずや 】
~~~ 書物を読んだりして学んだ事を、折にふれて学習することに
よって身につけてゆくのはなんと楽しいことか! ~~~
若いとき、ディープに勉強や修業を経験していたら、何かの折に再会する
かも知れません。 これが、実に嬉しいのです。
例えば、前半部の3四飛車のヨコ歩取り。
数ヶ月前に定跡書で学んでいて、突然実戦に登場。
学校で云えば、ちょっと前にたまたま勉強していた所が試験に出た!
ラッキーみたいな。(笑)
後半部の7七歩に至っては、学んでから45年の時が経っています!
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まさに、ハレー彗星的な邂逅とも言うべき巡り合わせ。
愉快ですね~。
ついでに紹介すると、前ブログ 《 奨励会三段との対局 》にも、
ヒゲ唯一の升田流棒銀の対局が、棋譜付きで登場してます。
これも、学んでから25年ほど経っての初実戦。
よろしければ、のぞいてみて下さい。 《2020.3.26分です》