Second Lifeに関する報道が一般紙などにも掲載され、日本企業の参入も相次いでいるが、日本人の登録ユーザー数は多くない。「何が面白いか分からない」と、すぐにやめてしまうユーザーも多く、話題先行の盛り上がり方は“空騒ぎ”にも見えるが──。
「Second Lifeの何が面白いか分からない」――こんな声を最近よく聞く。Second
Lifeは、昨年から日本でも話題の、米国発のネット上の3D仮想空間だ。ユーザーが自由にオブジェクトを作れたり、通貨を米ドルに換金できたりする点が
注目を集め、昨年末ごろから国内の新聞やテレビで取り上げられるようになった。古書店「BOOKOFF」が
支店を出したりmixiが採用オフィスを
構築するなど、日本企業も続々と参入を始めている。
だが日本人の登録ユーザー数は多く見積もっても10万人以下と見られ、一度登録しても「ソフトの起動ができなかった」「操作が難しすぎる」「何を
していいか分からない」などという理由ですぐにやめてしまうユーザーが多い。盛り上がっているのはメディアと企業とごく一部のユーザーだけで、最近の過熱
報道は、“空騒ぎ”にも見える。
Second Lifeが「すごそうに見える」理由
Second Lifeの日本人街「NAGAYA」
Second Lifeは、米Linden
Labが2003年に正式公開した3D仮想空間だ。自分のアバターを操作して3D空間を探検できる仕組みはMMORPGに似ているが、敵を倒したりミッ
ションをクリアしたりなどといった特定の目的はなく、何をするのもユーザーの自由。アバターデザインから住む場所、乗り物、動作、参加するコミュニティー
などを、自由に選んだり作ったりできる。
専用のクライアントソフトには3Dモデリングツールが組み込まれており、アイテムや洋服、建物、楽器など何でも作ることができる。アバターの動作や乗り物の動きを自由にプログラミングすることも可能だ。
ゲーム内通貨「リンデンドル」(L$)は現金(米ドル)に換金できるため、ゲーム内で商売してお金を稼ぐと、実社会でもお金持ちになれる。自作の
アイテムを売ったり、土地を切り売りしたり、サービスを提供して対価を稼いだり――ビジネスの可能性はさまざま。Second
Life内の土地売買でリンデンドルを稼ぎ、米ドル換算で100万ドル以上を手に入れたユーザーが出現したことも昨年話題になった。
日産自動車は、Second Life内に島(SIM)を買い、新車の“自動販売機”を設置。アバターで試乗できる
こうした特徴がリアルビジネスに生かせると踏んだ米国企業は、昨年半ばごろから次々にSecond
Lifeに参入し、プロモーションやマーケティング活動を展開してきた。日産自動車、トヨタ自動車、BMWといった自動車メーカー、Reutersなどメ
ディア、Sony BMGなどレコード会社、IBMやSun MicrosystemsといったIT系――参入企業の業種は実にさまざまだ。
米国の有名大学による仮想キャンパスも複数あり、カリフォルニア州立大学やカリフォルニア大学ロサンゼルス校などが実際に授業やセミナーを行っている。
米国でのこうした盛り上がりが米国メディアを通じて国内に伝わり、昨年末ごろから、国内のIT系・経済系メディアでも報道されるようになった。
Linden
Labが「日本語版を近く公開する」と昨年から言い続けていたこともあり、日本語版への期待も相まって報道が過熱。今年に入って一般紙や雑誌、テレビなど
でも「Web2.0の“次”のサービス」などとして紹介されるようになり、国内企業も参入し始めている。
前出のブックオフやミクシィのほか、電通がデジタルハリウッド大学院と研究所を発足させたり、東芝EMIも楽曲プロモーションで利用すると表明するなど、大企業による参入も相次ぐ。
ユーザー数、世界合計でもmixi未満
メディアの報道と企業の参入が先行して盛り上がっているSecond
Lifeだが、日本どころか世界でも流行しているとは言い難い。全世界の登録ユーザー数は、3月7日現在で約436万。これは、国内ローカルサービスであ
るmixiの登録ユーザー数800万(1月28日現在)にも遠く及ばない。
全登録ユーザーのうち、60日以内にログインしたユーザー数は約160万と、36%にとどまる。オンラインのユーザー数は常時2万人弱~3万人弱
程度と、全登録ユーザーの1%未満。「ラグナロクオンライン」のピーク時の最大同時接続数が70万(ボットはともかく)を超えていたことを考えると、世界
的に見てもそう大きいサービスとは言えなくなる。
日本人ユーザーに限定すると、さらに寂しい状況だ。Linden Labが2月9日に発表した1月時点でのSecond Lifeの国勢調査によると、全登録ユーザー311万7287のうち、日本人は1.29%・約4万という計算だ。
増加を見積もって現在の日本人ユーザー数を6万と仮定し、アクティブ率を世界全体と同じ36%と仮定すると、日本人アクティブユーザーは2万程度。オンラインのユーザーはワールドワイドより多めに見積もって1%としても、たった600人に過ぎない。
報道の過熱ぶりや大企業による派手な参入による“盛り上がり感”に反して、Second
Lifeの日本人ユーザーはかなり少なく、とても流行しているとは言えない。ここまで期待されながら、なぜ盛り上がらないのだろうか。実際にプレイしてみ
ると、その理由が見えてくる。
Second Life「不」人気、7つの理由
(1)始めるまでの手続きが面倒
ビデオカードが対応していない、という無情なメッセージが。高速ブラウザ「Second Life FIRST LOOK」なら対応ビデオカードが異なるようなので、このメッセージが出た場合はFIRST LOOKを試してみるといいだろう。ただしこのソフトは動作が不安定で、環境によっては頻繁に落ちるようだ
最近のネットサービスはほとんどが、Webブラウザ上で完結するものばかり。専用のクライアントソフトをダウンロードする必要があるSecond
Lifeはそれだけで障壁が高い。しかも、ソフトは頻繁にアップデートされるため、そのたびにダウンロードし直さなくてはならなくて面倒だ。
また、アバターデザインがいかにもアメリカ風で、日本人好みではない。アバターがかわいければプレイへの意欲が高まり、少々のハードルも乗り越えようと思えるだろうが、このアバターで日本人を惹きつけるのは難しいだろう。
アバターのラストネームは100以上の選択肢から選ぶのだが、日本人名はごくごく一部。不本意な名前を付けることになると、アバターへの愛情も持ちにくく、プレイへの意欲も減退してしまう(関連記事参照)。
デフォルトのアバターデザインは、いかにもアメリカ風で、あんまり萌えない。ちょっと話題になった“米国版ときメモ”みたいな感じ
(2)要求PCスペックが高い
Second Lifeをストレスなく動かすには、そこそこ高スペックなPCと、光回線レベルのブロードバンド環境が必要になる。対応しているビデオカードも限られており、デフォルトの環境ではソフトのインストールすらできないという声もよく聞く。
記者もビデオカード問題に悩まされた1人。記者が普段仕事で使っている、昨年会社で購入したデスクトップはビデオカードが対応しておらず、別のPCをSecond Life専用機を用意し、改めてインストールし直す羽目になった。
その専用機とは、4年ほど前に購入したデスクトップで、Celeron/1.8GHz、768Mバイトメモリ、ビデオカード内蔵型のDellマシン。さすがにこのスペックだと動きはカクカクするし、頻繁にフリーズするし、描画は極端に遅く、かなりイライラした。
Second Lifeの推奨スペックは、CPUがPentium 4/1.6GHzかAthlon
2000+以上、メモリは512Mバイト以上、グラフィックスカードはGeForce FX 5600/6600以上かRadeon
9600/X600以上となっている。ストレスなく動かすには、できるだけ高スペックなPC――できればオンラインゲーム推奨レベルの性能を持ったマシン
が望ましいだろうが、ノートPC率が高い日本では不利なユーザーも多そうだ。
(3)操作が難しすぎる
(1)(2)のハードルを乗り越えてログインし、晴れて初心者の島「Orientation Island」にやってきたとしよう。だがここでまた壁にぶつかる。操作方法が難しいのだ。
まるで「ドラクエII」のような……アバターを前後左右に動かすだけなら矢印キーだけで直感的にできるが、それ以上の行動――走ったり、飛んだり、座ったり、視点を変えたり、ものをつ
かんだりといった基本的な動作でさえも直感的には習得しにくく、Orientation
Islandの英語ヘルプを必死で読むなりして覚えていくしかない。
加えて、Second
LifeブラウザはWebブラウザと見まごうほど高機能で、メニューが山のようにある。それぞれのメニューの役割を知り、使いこなせるようになるまでは、
かなりの“勉強”が必要だ。記者も10時間以上はSecond
Lifeをプレイし、さまざまなサイトなどで操作法を学んできたが、いまだにブラウザの全機能は理解していないし、設定などで分からない点がたくさんあ
る。高機能だが複雑怪奇なメニュー
(4)何をしていいか分からない
(3)までのハードルを乗り越え、やっと操作法を習得したとしても、今度は「何をしていいか分からない」という壁にぶち当たる。Second
Lifeは、倒すべき敵もいなければ、クリアすべきミッションもない完全に自由な空間。最初は有名な場所や企業SIMなど、無料で楽しめる場所を眺めて楽
しんだとしても、一通りめぐるとやることがなくなってしまう。常時“「ドラクエII」で船を手に入れた後状態”が続いてしまうため、なんとなく足を踏み入
れた人には退屈になってしまう。
他ユーザーとのコミュニケーションを楽しむという手もあり、黙って歩いていても頻繁に話しかけるられるが、ネット上で見知らぬ人とコミュニケー
ションすることに抵抗がある人にとっては辛いだろう。英語圏のユーザーの方が圧倒的に多いため、会話はどうしても英語中心。英語が苦手な人にとって、コ
ミュニケーションへの抵抗感は強い。
(5)何をするにもお金がいる
Second
Life内で何かやろう、と思い立ったとしよう。アバターの着せ替えでもいいし、アイテム生成でもいいし、家を建ててもいい。だが何をするにも、基本的に
はリンデンドル――お金がかかってしまう。どの街に行っても目に付くのは、「○○L$」と値段を書いた看板。素敵なアイテムを見つけても、お金がないと手
に入らない。
アバターは自分でカスタマイズもできるし、無料のアイテムで着飾ることも不可能ではないが、初心者がアバターをかっこよくデザインするのはかなり難しく、無料アイテムにも限界がある。好みの姿に簡単に変身したいなら有料アバターが最も手っ取り早い。
手持ちの画像などを使ってオリジナルアイテムを作るにも、お金が必要になる。データのアップロードごとに10L$(約5円)かかる仕組み。家を
買って土地を持つのももちろん有料で、無料中心のネットの世界に慣れた目線で見ると、あまりに世知辛い世界だ。まだ見ぬ秘境に胸をときめかせて足を踏み入
れたら、既にみやげ物屋が林立していた──というがっかり感というか、なにからなにまで「金、金、金」が待ち構えている世界に失望する人もいるだろう。
(6)右も左も広告だらけ
ブログやSNSなど、ここ数年で大流行したサービスは、まずユーザーがコンテンツをどんどん作り、草の根から盛り上がっていった。大企業は当初、
これらのサービスを注目もしていなかったし、ビジネス利用の可能性に対しても長く懐疑的。バナー広告の出稿すら渋っていた。ブログやSNSが広告媒体とし
て認知され始めたのは、数百万人単位でユーザーが集まり、盛り上っていると確認できた後だ。
IBMとCircuit City Storesが提携して昨年末に構築したこの店舗は大々的に報じられたが、3月6日午後1時ごろ行ってみるとまったく人気がなかった。広告目的のコンテンツに人が集まるのは、オープン当初だけだ
だがSecond Lifeには、ユーザー規模が十分に拡大する前に大企業が続々と参入している。Second
Life内で広告コンテンツを展開しても、ユーザーの絶対数が少ないため、効果はきわめて限定的。それにも関わらず企業の参入が相次ぐのは、Second
Life進出が、Second
Lifeの“外”の媒体――ネットニュースや新聞、雑誌、テレビなど――にニュースとして取り上げてもらってアピールしたいという意図や、「新しいネット
分野にも強い先進的な企業」というイメージをつけたいといった意図からだろう。
こんな「下心」を満載した広告コンテンツは、メディアに露出する、という当初の目的を達成すれば、打ち捨てられる可能性が高い。実際、企業が大規模に構築したSIMは、構築当初はユーザーが集まって盛り上がるものの、その後急速に人が来なくなる傾向がある。
企業の拙速な参入は、Second Lifeを看板だらけのゴーストタウンにしてしまいかねない。また、企業が「広告ターゲット」を手をこまねいて待っている世界は、アフィリエイトだらけのブログのようで、一般ユーザーにとっての魅力には欠けるだろう。
(7)人気の場所はエロかギャンブル
人気のスポットを上位からランキング表示した結果。アダルト系とカジノばかりだ
Second
Lifeで最も人気の場所は、「やっぱり」というべきか、アダルト系かカジノだ。トラフィックの多い場所を検索すると、「CASINO」「FREE
SEX」「NUDE
BEACH」などといった文字が並ぶ。これらに行ってみると裸のアバターが街をかっ歩し、セックスのスクリプトを使って見知らぬ人と、“バーチャルセック
ス”に興じていたりする。
アダルト系のアバターやアニメーションは充実しており、さまざまなアイテムがそれなりの値段で手に入る。リンデンドルは米ドルに換金できることを考えると、カジノで遊ぶのは実際のお金をかけて遊んでいるのと同じだ。
これらの人気スポットを見ていると、“3D空間を活用した新しいインターネットの可能性”というよりは、アングラコンテンツが幅を利かせていた初期のインターネットのように思えてくる。前者を期待してSecond Lifeに入ったユーザーは“ドン引き”しかねない。
なぜ話題が先行したのか
Second Lifeを楽しむためには高いハードルを何度も超えねばならず、実際のユーザー数は少ない。にもかかわらず、なぜ話題だけが先行したのだろうか。