米石油メジャーの焦り
米国には国家的エネルギー政策が欠如している!
* 2007年11月2日 金曜日
Moira Herbst (BusinessWeek.com記者、ニューヨーク)
米国時間2007年10月26日更新 「The Trouble with Crude Oil」
気候変動を憂い、省エネを呼びかけ、動物性脂肪から燃料を製造する――。
最近のジェームズ・マルバ氏は、米石油第3位の企業コノコフィリップス(COP)の最高経営責任者(CEO)らしからぬ言動を取っているように見える。石油業界に身を置いて34年のマルバ氏は、業界に押し寄せる時代の波をしぶしぶ認めているのだ。
*中国にあって、米国にないもの?
原油価格は10月26日、再び史上最高値を更新し、高騰が続く。地球温暖化や中国の石油消費への懸念が広まる中、マルバ氏をはじめとする石油大手トップが、国家レベルの新たなエネルギー政策を求めているのだ。
「我々には国家的なエネルギー政策がない」
マルバ氏は10月25日、BusinessWeek誌のエディターや記者を前にこう語った。米国には将来を見据えた一貫性のある計画が欠如している。その一方で、米国と競合する各国は市場で着々と力を蓄えているとマルバ氏は言う。
「中国には非常にバランスの取れた戦略があり、それが経済成長と生活水準の維持を可能にしている」
米石油企業の国際競争力を維持するためには、米政府がエネルギーの生産と消費の道筋を示すような断固とした新政策を打ち出すべきだとマルバ氏は訴えている(BusinessWeek.comの記事を参照:2007年6月28日「The Problem's Not Peak Oil, It's Politics」)。その政策は、(1)新たなエネルギー資源の開発、(2)省エネルギー対策、(3)エネルギー技術への政府出資の増額、(4)二酸化炭素排出に関する連邦規制──の4つを柱にすべきだと言う。
*原油価格が高騰する中での減益決算
長期的な地球環境保護を強調するマルバ氏の姿勢は、エネルギー業界の重鎮たちとは極めて対照的だ。米エクソンモービル(XOM)のレックス・ティラーソンCEOは、米国のエネルギー政策は国内石油資源の供給制限を緩和することを優先すべきだと主張している。アラスカ北極圏や米フロリダ沖メキシコ湾の一部海域での油田開発をめぐっては、熾烈な政治的駆け引きが繰り返されていることが知られている。
エクソンのリー・レイモンド前CEOは、気候変動を裏づける科学的根拠に疑問を投げかけて有名になった。英蘭系ロイヤル・ダッチ・シェルのJ・ファン・デル・フェーアCEOは、「代替エネルギーや再生可能エネルギーが将来の主力になる」という主張に対して、それらは全世界のエネルギー需要の3割を満たせるにすぎないと反論している。
マルバ氏がBusinessWeek誌とのインタビューに応じたのは、コノコフィリップスが第3四半期の5%減益を発表した翌日だった。減益の主因は、原油価格の高騰によるガソリン精製部門の差益縮小だ。
原油価格は10月26日、再び史上最高値を更新し、強気の相場展開が続いた。軽質スイート原油先物(12月渡し)はニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で一時、史上最高値の92ドル22セントを記録した後、1ドル40セント高の1バレル=91ドル86セントに値を戻した。
マルバ氏は、供給の逼迫、需要増、ドル安、政治的混乱といった要因から、原油の高値は続くと予想する。原油価格は前年同期比で52%上昇している(BusinessWeek.comの記事を参照:2007年10月17日「Next Stop: $100 Oil?」)。「原油価格は今後も高値が続き、70ドル台を割ることはまずないだろう」(マルバ氏)。
*米メジャーといえども国営石油会社にはかなわない
石油メジャー各社の従来型ビジネスモデルを揺るがす要因がもう1つある。各国の国営石油会社が勢力を拡大していることだ。今や化石燃料の獲得競争で強力なライバルとなっている。
国営石油企業は、合計すると既に世界の石油埋蔵量の9割以上を所有または支配している。国営だから、探鉱プロジェクトがたとえ不採算であっても許容することができる。民間の上場企業である米メジャー各社には到底真似ができないことだ。つまり、国家プロジェクトとして進められる以上、利益よりも政治が優先されるということだ。
例えばベネズエラは先月(9月)、国内の重質油田開発に最大100億ドルを投資し、中国市場向けに売り込むと発表した(BusinessWeekチャンネルの記事を参照:2007年10月11日「反米チャベス、損しても中国取る」)。
この取引で、ベネズエラは年間37億ドルもの利益を棒に振ることになるかもしれないが、ウゴ・チャベス大統領は中国との関係強化による戦略的利益を見込んでいるのだ。
一方、中国国営石油会社であるペトロチャイナ(中国石油天然気、PTR)は、その時価総額が4400億ドル前後で推移。時価総額で世界最大の石油企業としてエクソンモービル(5110億ドル)を追い抜く可能性が出てきた。コノコフィリップスの時価総額は約1380億ドルだ。
「米国は調査研究にもっと予算をつぎ込むべきだ。米国は調査研究に数億ドルを拠出しているが、中国は数十億ドルとケタが違う。石油業界にカネを落とせと言っているのではない。大学や研究センターに資金をつぎ込むべきだ」(マルバ氏)
*“石油会社”ではこれからの100年を生き残れない
コノコフィリップスは多くの競合他社と同様、代替エネルギーや再生可能エネルギー資源の可能性も探っている。今春、米食肉大手タイソン・フーズ(TSN)と共に動物性脂肪からバイオディーゼル燃料を製造する合弁事業に着手した。また、環境危機を取り上げたCNNのシリーズ番組「Planet in Peril(危険にさらされる地球)」には、独自動車メーカーBMW(BMWG)と共同スポンサーにもなっている。
政府に気候変動への対策を求めているのはマルバ氏だけではない。米マラソン・オイル(MRO)社長のクラレンス・カザロ・ジュニア氏は10月26日、気候変動の主犯とされる二酸化炭素の排出量に直接税を課すというマルバ氏の意見に賛同の意を表明した。
エネルギー関連企業は、政府の方針転換に圧力をかけつつ、“環境問題に積極的に取り組む企業”というイメージの演出に精を出している。コノコフィリップスは5月、企業と環境保護団体が連合して二酸化炭素排出に関する連邦規制を求めている「米国気候アクション・パートナーシップ(USCAP)」に加盟した。英系のBPアメリカ(BP)、シェル(RDSB)、米デューク・エナジー(DUK)も同グループの参加企業だ。
マルバ氏は、石油資源の不足や温室効果ガス排出に対する懸念を考えれば、最終的に、コノコフィリップスやほかの石油企業は基本的なビジネスモデルを改めることになるだろうと言う。既に、代替エネルギーや再生可能エネルギー資源はもとより、石炭への転換を進めるべきかを検討しているという。マルバ氏は言う。
「過去100年間にやってきたことを、これからの100年間にも続けることはできないかもしれない。単なる石油やガスの会社から、どうすれば総合エネルギー企業に生まれ変われるか──。それを自らに問わなければならない」