日常

NHK 100分 de 名著 「苦海浄土」(石牟礼道子)

2016-09-09 23:25:25 | 
NHK 100分 de 名著はいい番組だ。
今回は「苦海浄土」(石牟礼道子さん)。
しかも解説が若松英輔さんという素晴らしい組み合わせ!!

NHK 100分 de 名著
名著58 「苦海浄土」(石牟礼道子)

夏川結衣さんが朗読をされていて、素晴らしいキャスティングだと思った。
なぜなら、「苦海浄土」は熊本弁のリズムが主旋律となっていて、夏川さんは熊本生まれの女優さんだから。熊本弁の朗読はさすがだった。
若松さんの解説も素晴らしかった。

「苦海浄土」は石牟礼さんが言葉を失った人々の口となった。
石牟礼さんは書き、書かされた本。
彼女は表現者になったというより、ならされたのだ。みずからだけではなく、大いなるおのずからの力で。


公害・水俣病、という前代未聞の出来事を語るために、石牟礼さんは言語表現自体を新しく創造せざるをえなかった。
そのことが、「苦海浄土」を誰も真似できない表現により語られる世界文学として成立させたのだった。
語りのような詩のようなつぶやきのような独り言のようなうわ言のような祈りのような叫びのような怒りのような慈悲のような、不思議なコトバの連なり・・・。
時に巫女となり、時に水俣の海となり、時に魚となり、時に水俣の土地となり、、、、かたられる。
石牟礼さんは、詩を書く気持ちで書いたとのことだ。

自分は水俣に家族で住んでいたこともある。知り合いに水俣病の人もいた。
当時子供だった自分は「絶対におかしい」と強く思った。
このただならない巨大な問題から何かを受け取り、自分の中に何かが移り住んだ。
その時に感じた「違和感」はいまだにくすぶっている。
自分が医療職についているのも、何か関係があるだろう。背中を押されるような力を感じる。


伊集院さんのコメントも的確で素晴らしく、NHK 100分 de 名著は本当に素晴らしい番組だと思う。
毎回録画していて見ているが、家に帰ってテレビをつけたらちょうど始まったときには、そのシンクロに驚いた。
以前も、カント「永遠平和のために」万葉集古事記プラトン『饗宴』を読んでいたら、100分 de 名著でも同時に取り上げられて驚いたことがあった。



■石牟礼道子『苦海浄土』より
「そのときまでわたくしは水俣川の下流のほとりに住みついているただの貧しい一主婦であり、安南、ジャワや唐、天竺をおもう詩を天にむけてつぶやき、同じ天にむけて泡を吹いてあそぶちいさなちいさな蟹たちを相手に、不知火海の干潟を眺め暮らしていれば、いささか気が重いが、この国の女性年齢に従い七、八十年の生涯を終わることができるであろうと考えていた。
 この日はことにわたくしは自分が人間であることの嫌悪感に、耐えがたかった。
釜鶴松のかなしげな山羊のような、魚のような瞳と流木じみた姿態と、決して往生できない魂魄は、この日から全部わたくしの中に移り住んだ。」

→<参考>○石牟礼道子さん(2016-05-02)