茂木健一郎さんの対談集、「芸術の神様が降りてくる瞬間」光文社(2007年)を読みました。
BS日テレでの「ニューロンの回廊」という番組での対談の書籍化です。
対談相手が超豪華で、町田康さん、金森穣さん、山下洋輔さん、立川志の輔さん、荒川修作さんというラインナップ。
2016年の年末に荒川修作さんの三鷹天命反転住宅に宿泊し、荒川修作さんが気になって色々と探していたら、この対談本を見つけたのです。
〇荒川修作さんと三鷹天命反転住宅(2017-01-04)
「ニューロンの回廊」自体は2006年4-9月に放送されたもので、荒川修作さんは2010年に亡くなられているので、貴重な対談でもある。
ただ、その他以外のみなさんとの対談もとても面白く刺激に満ちたもので、茂木さんは聞き手としても素晴らしい方なのだということがよくわかった。
それぞれの方のタイトルは以下の通り。
町田康
まず、自分の魂を荒らす必要がある
金森穣
今やる意味のあることを、模索せよ
山下洋輔
また次があるから、不完全なままでいい
立川志の輔
強く求めていないと手に入れることができない
荒川修作
進化は私たちの掌中にある
■
町田康さん
→とにかく言語表現ということを真剣に考えている方だと思った。
パンクバンドもされていて、自分の中の溢れるような衝動やエネルギーを、減衰させずに外の世界と連結させる方法を表現している方なのだと。
古典に関する造詣も深いようで、
○町田康「ギケイキ:千年の流転」河出書房新社(2016年)
○伊藤比呂美(翻訳),福永武彦(翻訳),町田康(翻訳)「日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集」(池澤夏樹=個人編集 日本文学全集08)河出書房新社(2015年)
→「宇治拾遺物語」を町田康さんが現代語訳している)
なども気になっていたので、改めて読んでみようと思う。
●「ダイナミックレンジを、広い言葉を持つっていうのは、例えば自分や自分の文章の中にいろんな声を受け入れるということだと思うんです。」
●「じゃあ小説の技術って何なのかっていうと、結局は言葉の配置をどうするかっていうだけの話なんです。」
●「出発点としてなぜ小説を書くのかっていうのもあるかもしれません。たぶん、あるある種の絶望から出発しているからだと思うんです。それはどういうことかっていうと、たぶん自分の言っていることは誰にも分らないだろうなっていうことですね」
●「いろんな仕事がありますけど、どこかで真剣にやっていると、誰かが必ずその真剣な仕事を見て、この人は真剣に仕事をやっているんだなって通じる場合が、実感としてありますけどね。」
●「実っていうのは、虚実の実というよりも誠というか、そういう切なさとか切迫する何かが自分の中にないと面白くないですね。」
■
金森穣さん
→金森穣さんが主催するNOISMは、IsseyMiyakeがステージ衣装を作った作品『ラ・バヤデール―幻の国』で初めて見に行った。
→○Noism劇的舞踊『ラ・バヤデール―幻の国』(2016-07-04)
その時にも、ダンサーの張りつめた身体能力の高さに驚いたし、体の動きを主軸に構成される舞台の全体性や総合性に感銘を受けた。
今回の対談本を見ていて強く感じたのは、金森穣さんの言語表現の適切さと、自分を常に客観視しながら話している、その視点のぶれなさだ。
踊りを言語で適切に表現することも、それも含めての広い表現なのだと感じた。
質の高い踊りを言葉で説明するには、それに見合う質の高い言葉を使う必要があるが、その点でも金森さんの表現力は群を抜いている。
茂木さんとの対談で、知らない体の可能性のことをおっしゃっていて、そうした体の可能性の追求や探求という視点で踊りを捉えていることがいいと思った。
●「日常では得ることのできないような、新しい体験というのをしてほしいなと思います。」
●「空間における体の動きすべてに意識的になることがいちばん重要で、そのためにはスローモーションっていうのが最も分かりやすいんです。」
●「研ぎ澄まされた状態で行われている時に、けがをする瞬間って言うのがあるんです。それは一瞬、能と体のバランスがフッと崩れた瞬間に痛めるんですね。」
●「後ろを忘れている人の演技と、見えない後ろを意識している人の演技では、全然違うんですよね。」
●「360度同時に体を意識していないと、体は動かない。
動かないというか、体が平面になっちゃうんですね。」
●「人としての存在の可能性を社会に対して見せていくことができる。」
●「僕らは作り手として、もうすでにやられているからやらなくていいよってことが重要なのではなくて、いまこの時代にいる人たちとともに、今まさにこのとき何を体験するかっていうのが重要なんです。
方法論的なものはもう本当に尽きないし、オリジナリティっていうのは重要じゃないですけれども、それをやる。
その出来事を体験した人としてない人って言うのは、物事の価値観とか何かを見た時の感覚とか、絶対違う。そこに意義があるんですよね。」
●(茂木)「意外と魂の危機のときに、新しい自分がつくられると思っているんですよ。英語で言えば、emergency(危機)と、emergence(創発する)っていうのは同じ語源。」
■
山下洋輔
→押しも押されぬジャズ界の巨匠。特に即興演奏を得意とされるが、その即興性に関する対話。
逸脱しなければ曲が終わらない。という発言も面白かった。
何か定型があり、そこを超えていく営みが、何か自分そのものの枠を超えている感覚と一致して、その楽しさが音となり、周囲にも伝わるのだろう。
脳は秩序をつくるもの。だからこそ、意識的に無秩序をつくるのは貴重で、そこにはものすごい意志の力がある、という話も面白いと思った。
●「ピアノとじゃれて、そうやって出た音に喜んでいますよね。」
●「(即興のときは)今まですべての音楽体験、音の塊とか、そういうものがもうとっさに出てくるんだと思います。」
●「即興演奏だと、相手のことを本当によく聴く」
■
立川志の輔
→落語の最中、クライマックスの瞬間にお客さんの携帯電話が鳴った時どうするか。
昔は、終演後に怒ったりしていたが、今ではその音自体も落語だと思い、それも含めてうまく切り返して笑いに帰るようにしている、というのが流石のプロだな、と思った。
■
荒川修作
→荒川さんの言葉遣いは極めて独特で、直観で先につかんだものを、なんとか言葉で近づけようとしている様子がすごく伝わってくる。
荒川さんは、生命というもの、そして生命が宿命として持つ死の問題を何らかの形で越えていこうとして創作をしていた人だということがよく分かる。
芸術家のマルセルデュシャンや、物理学者のハイゼルベルグと若き日に交流があったりと、荒川さんの強力な問題意識は、言語化より前に周囲に感染して伝わっていたようだ。
荒川さんの三鷹天命反転住宅に行き、自分も何か生命に関わることを医療に限定せず、衣食住という人間の暮らしの基本とも連結させながら、広い意味での医療を模索して行きたいと思った。それは芸術と哲学と医療と、、、様々なものが結びつきながら、決して分離してバラバラにはできないものになるのだろうと思う。
●「優秀な科学者っていうのは、自然現象と「私」の環境について研究した人ですね。」
●「私たちはまだまだ進化の途中なんですよ。だから、無限や永遠を、この身体で体験できる進化を選び、出現させるのです。」
●「地球上のすべての人々の「今」持っている「有機体(からだ)」をいかに使用するかで、我々の進化の方向を変えることが可能なんですよ。」
●「地球上に出現したわたしたち人の目的が、あまりにも小さいから、現在のような物質文明が栄えてしまい、生命文明に向かえなかったんですよ。」
●「(最終的な目標は)無限から始まり、その永遠の命を作り上げる。」
●「いまこそ、この真っ暗な日本、真っ暗な世界ね。戦争なんかやっているんだよ。考えられないだろ。人を殺したり悪いことをするっていうのは、希望がないからやるの。」
BS日テレでの「ニューロンの回廊」という番組での対談の書籍化です。
対談相手が超豪華で、町田康さん、金森穣さん、山下洋輔さん、立川志の輔さん、荒川修作さんというラインナップ。
2016年の年末に荒川修作さんの三鷹天命反転住宅に宿泊し、荒川修作さんが気になって色々と探していたら、この対談本を見つけたのです。
〇荒川修作さんと三鷹天命反転住宅(2017-01-04)
「ニューロンの回廊」自体は2006年4-9月に放送されたもので、荒川修作さんは2010年に亡くなられているので、貴重な対談でもある。
ただ、その他以外のみなさんとの対談もとても面白く刺激に満ちたもので、茂木さんは聞き手としても素晴らしい方なのだということがよくわかった。
それぞれの方のタイトルは以下の通り。
町田康
まず、自分の魂を荒らす必要がある
金森穣
今やる意味のあることを、模索せよ
山下洋輔
また次があるから、不完全なままでいい
立川志の輔
強く求めていないと手に入れることができない
荒川修作
進化は私たちの掌中にある
■
町田康さん
→とにかく言語表現ということを真剣に考えている方だと思った。
パンクバンドもされていて、自分の中の溢れるような衝動やエネルギーを、減衰させずに外の世界と連結させる方法を表現している方なのだと。
古典に関する造詣も深いようで、
○町田康「ギケイキ:千年の流転」河出書房新社(2016年)
○伊藤比呂美(翻訳),福永武彦(翻訳),町田康(翻訳)「日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集」(池澤夏樹=個人編集 日本文学全集08)河出書房新社(2015年)
→「宇治拾遺物語」を町田康さんが現代語訳している)
なども気になっていたので、改めて読んでみようと思う。
●「ダイナミックレンジを、広い言葉を持つっていうのは、例えば自分や自分の文章の中にいろんな声を受け入れるということだと思うんです。」
●「じゃあ小説の技術って何なのかっていうと、結局は言葉の配置をどうするかっていうだけの話なんです。」
●「出発点としてなぜ小説を書くのかっていうのもあるかもしれません。たぶん、あるある種の絶望から出発しているからだと思うんです。それはどういうことかっていうと、たぶん自分の言っていることは誰にも分らないだろうなっていうことですね」
●「いろんな仕事がありますけど、どこかで真剣にやっていると、誰かが必ずその真剣な仕事を見て、この人は真剣に仕事をやっているんだなって通じる場合が、実感としてありますけどね。」
●「実っていうのは、虚実の実というよりも誠というか、そういう切なさとか切迫する何かが自分の中にないと面白くないですね。」
■
金森穣さん
→金森穣さんが主催するNOISMは、IsseyMiyakeがステージ衣装を作った作品『ラ・バヤデール―幻の国』で初めて見に行った。
→○Noism劇的舞踊『ラ・バヤデール―幻の国』(2016-07-04)
その時にも、ダンサーの張りつめた身体能力の高さに驚いたし、体の動きを主軸に構成される舞台の全体性や総合性に感銘を受けた。
今回の対談本を見ていて強く感じたのは、金森穣さんの言語表現の適切さと、自分を常に客観視しながら話している、その視点のぶれなさだ。
踊りを言語で適切に表現することも、それも含めての広い表現なのだと感じた。
質の高い踊りを言葉で説明するには、それに見合う質の高い言葉を使う必要があるが、その点でも金森さんの表現力は群を抜いている。
茂木さんとの対談で、知らない体の可能性のことをおっしゃっていて、そうした体の可能性の追求や探求という視点で踊りを捉えていることがいいと思った。
●「日常では得ることのできないような、新しい体験というのをしてほしいなと思います。」
●「空間における体の動きすべてに意識的になることがいちばん重要で、そのためにはスローモーションっていうのが最も分かりやすいんです。」
●「研ぎ澄まされた状態で行われている時に、けがをする瞬間って言うのがあるんです。それは一瞬、能と体のバランスがフッと崩れた瞬間に痛めるんですね。」
●「後ろを忘れている人の演技と、見えない後ろを意識している人の演技では、全然違うんですよね。」
●「360度同時に体を意識していないと、体は動かない。
動かないというか、体が平面になっちゃうんですね。」
●「人としての存在の可能性を社会に対して見せていくことができる。」
●「僕らは作り手として、もうすでにやられているからやらなくていいよってことが重要なのではなくて、いまこの時代にいる人たちとともに、今まさにこのとき何を体験するかっていうのが重要なんです。
方法論的なものはもう本当に尽きないし、オリジナリティっていうのは重要じゃないですけれども、それをやる。
その出来事を体験した人としてない人って言うのは、物事の価値観とか何かを見た時の感覚とか、絶対違う。そこに意義があるんですよね。」
●(茂木)「意外と魂の危機のときに、新しい自分がつくられると思っているんですよ。英語で言えば、emergency(危機)と、emergence(創発する)っていうのは同じ語源。」
■
山下洋輔
→押しも押されぬジャズ界の巨匠。特に即興演奏を得意とされるが、その即興性に関する対話。
逸脱しなければ曲が終わらない。という発言も面白かった。
何か定型があり、そこを超えていく営みが、何か自分そのものの枠を超えている感覚と一致して、その楽しさが音となり、周囲にも伝わるのだろう。
脳は秩序をつくるもの。だからこそ、意識的に無秩序をつくるのは貴重で、そこにはものすごい意志の力がある、という話も面白いと思った。
●「ピアノとじゃれて、そうやって出た音に喜んでいますよね。」
●「(即興のときは)今まですべての音楽体験、音の塊とか、そういうものがもうとっさに出てくるんだと思います。」
●「即興演奏だと、相手のことを本当によく聴く」
■
立川志の輔
→落語の最中、クライマックスの瞬間にお客さんの携帯電話が鳴った時どうするか。
昔は、終演後に怒ったりしていたが、今ではその音自体も落語だと思い、それも含めてうまく切り返して笑いに帰るようにしている、というのが流石のプロだな、と思った。
■
荒川修作
→荒川さんの言葉遣いは極めて独特で、直観で先につかんだものを、なんとか言葉で近づけようとしている様子がすごく伝わってくる。
荒川さんは、生命というもの、そして生命が宿命として持つ死の問題を何らかの形で越えていこうとして創作をしていた人だということがよく分かる。
芸術家のマルセルデュシャンや、物理学者のハイゼルベルグと若き日に交流があったりと、荒川さんの強力な問題意識は、言語化より前に周囲に感染して伝わっていたようだ。
荒川さんの三鷹天命反転住宅に行き、自分も何か生命に関わることを医療に限定せず、衣食住という人間の暮らしの基本とも連結させながら、広い意味での医療を模索して行きたいと思った。それは芸術と哲学と医療と、、、様々なものが結びつきながら、決して分離してバラバラにはできないものになるのだろうと思う。
●「優秀な科学者っていうのは、自然現象と「私」の環境について研究した人ですね。」
●「私たちはまだまだ進化の途中なんですよ。だから、無限や永遠を、この身体で体験できる進化を選び、出現させるのです。」
●「地球上のすべての人々の「今」持っている「有機体(からだ)」をいかに使用するかで、我々の進化の方向を変えることが可能なんですよ。」
●「地球上に出現したわたしたち人の目的が、あまりにも小さいから、現在のような物質文明が栄えてしまい、生命文明に向かえなかったんですよ。」
●「(最終的な目標は)無限から始まり、その永遠の命を作り上げる。」
●「いまこそ、この真っ暗な日本、真っ暗な世界ね。戦争なんかやっているんだよ。考えられないだろ。人を殺したり悪いことをするっていうのは、希望がないからやるの。」