日常

こびとさん

2010-06-14 07:48:39 | 考え
村上春樹さんの1Q84に、リトルピープルという存在、空気さなぎという概念が出てくる。
当時読んでいたときは、あまりピンと来なかった。

最近、昔話を読んでいる。
欧米の昔話には、「こびとさん」の存在がよく出てくることに、ふと気付いた。

よく考えると、日本昔話の一寸法師とかも、こびとさんのお話だ。


こびとさんで思い出した「白雪姫」の話を、いまさら読んでみた。
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「完訳グリム童話集 白雪姫」(岩波文庫)
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『日が暮れて家へ帰って来た小人たちは、白雪姫が地面に倒れていて、もう息も止まっているのを発見した。
抱き上げて、何か毒になるものはないかと探し、紐をほどいたり、髪の毛を梳いたり、水や葡萄酒で体を洗ったりしてみたものだが、何もかもが無駄だった。

可愛い子供は死んでいた。
死んだままだった。 
みんなしてお姫さまを棺台に寝かせ、七人揃って、その傍へ腰をかけて嘆き悲しんだ。
泣いて泣いて、三日の間泣き続けていた。

それから埋めようと思ったが、お姫さまはいつまで経っても生きている人のように活き活きとしていて、頬も紅く綺麗なままだった。     

「こいつは、黒い土の中になんか埋められないね」

小人たちは言って、四方から見えるように透き通ったガラスの棺をこしらえさせて、その中へお姫さまを寝かせ、金文字で名前を書いたうえ、王の娘だということも書いておいた。 
それから棺を運び出して山の上へ置いて、いつも誰か一人が側で番をした。

獣たちもやって来て、白雪姫のことを泣き悲しんだ。
一番先に来たのがふくろうで、その次がカラス、一番おしまいが鳩だった。  
こうして白雪姫は長い長いあいだ棺の中で腐ることがなく、雪のように白く、血のように紅く、黒檀のような黒い髪だったので、まるで眠っているだけのようだった。』
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「小人」という存在を仮定することで、いろんなものが豊かになる。
それがファンタジーの力なのだ思う。
脳の中の補助線のようなもの。


自然治癒のようなものも、「自分の中の小人さんがやってくれたんだ」と思うこと。
なにかを無くしたときも、「小人さんが持っていったのかな」と思うこと。・・
そういう不可思議なものを、「霊」って言うとなんだか怖いけど、「こびとさん」といえば、少し可笑しみをもって見れる。


そういうものを想像することで、世界は豊かになるし、同時に小人さんという別の視点を得ることも出来る。
それがファンタジーがもつ力だ。
現実から逃げるためではなく、現実を豊かにするために。
そして、実際、むかしばなしにはそういう物語が満ち溢れている。


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白雪姫は義理の母に殺されるけど、これは字面通りの意味ではなくて、母性の負の側面のことのメタファーだと思う。 
殺すとかも、何かの死を象徴的に表している。
すべては、メタファーだ。
 
自分の中にある母性、自分の外にある母なるものとの切断を通して、死を擬似体験する。
そして、再生し、自分なりの母性を獲得し、自立し、成長していく。
そんな物語にも読める。



ひとりの人間が自立し、成長する時、過去の自分が死ぬような強烈な体験を通過する。 

その時期は、内的に閉じた不安定な状態でもある。 
白雪姫で言えば、こびとさんが守る。
1Q84で言えば、「空気さなぎ」のような場所で守られる。

その人の大切なたましいは、そこで静かに守られている。
信頼できる誰かが、そのさなぎをそっと開けに来るまで、静かに、スヤスヤと・・。
大切なさなぎがあけられるとき、その人は蝶となる。それも、成長のメタファーだ。


僕らは、比喩やメタファーというものを使うことで、ちがうものを連結させて、脳の中を流動化させることができる。
世界を分離して見るのではなく、いろいろなものごとが循環してつながった、大きな流れの中で、大きな物語の中で見ることができる。


メタファーの力で、別の場所に橋がかかる。空には虹がかかるのだ。

2 コメント

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Unknown (imura)
2010-08-28 16:58:17
小人といえば、僕は小人の靴屋が好きです。また残業して段取りしてるときは、いつも小人の気持ちになってます 笑

小人の靴屋を調べてたら、色々終わり方があるんですね。小人に服あげたら出て行ったとか、小人に酒飲ませたら、酔っ払って逃げ遅れた小人がいて、そいつと一緒にがんばって働いたとか。
この話って成果主義ってのを実は言ってるのかなぁ?下手な靴屋より、小人の方がうまいとか。
最後、小人がいなくなってからも、売れるようになりましたってのは、「のれん」「ブランド」で売れてるって話なのかしら?
小人の作り方を靴屋が真似して売れたというなら「知財」の重要性のことを言っているのかしら?童話難しいです。。

小人さんで、また思いつくのはバガボンドとはじめの一歩で最近、ニョロとか言って出てくる小さいお化けです。ある時点の描写とともに、そのときのキャラクターの心理状態が複数絡みあっているときに使われている印象を受けます。
でも、現実生活では小人は見えないので、その瞬間の描写だけで、相手の小人が何人見えるかは大事なことかなぁと思ってます。
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夢の中で (いなば)
2010-08-29 18:30:52
自分の中の意識で統御できない視点。それは無意識にあるからよくわからんのだけど、イメージしやすくするために小人っていう補助線を引くと面白いよね。

なんかモノがなくなったときも、『小人さんが持っていったのかなー』みたいに。
そういう働きものの小人さんが、夜中の夢の中で一生懸命働いていろんなバランスとってくれてるのかもしれん。

映画『インセプション』はすごく面白くて、今度ブログに感想も書きたいんだけど、あの夢の中の世界も、それぞれの人の中にある小人さんの世界って思うと、けっこう面白いと思うな。
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