日常

伊藤比呂美『読み解き「般若心経」』

2011-01-24 09:48:45 | 
こんど、ブッダ実際の語りに一番近いとされている「スッタニパータ」の読み合わせをすることもあり、その「声」が持つ圧倒的なリズムに魅せられた。まさにおんがく。にわかに仏教づいている。


その流れで、伊藤比呂美さんの『読み解き「般若心経」』(朝日新聞出版)を読んだ。


比呂美さんご本人も、この本を作られた編集者の方も直接知っているということもあって、かなりむかしにもらっていたのだけど、

本を本棚に置く。
新しい本を買う。
本を上に下に右に左に奥にと詰め込んでいく。

その過程で。
いつのまにか本棚の奥に眠っていて、それをふとしたことから発掘し、再度読むに至った。


で。
いやぁ、ほんとにおもしろい。最高だった。

やはり、詩人はすごいわ、と。
本を読んでいても、なんだか鳥が飛ぶように、魚が泳ぐように、もうその圧倒的な流れの中に、その旋律に流されるように読まされてしまう。


詩人の声。すごい。
これが詩人の持つ力なのか、と。

こうして。
自分も、じゃっかん自由詩のような口調になってきた。
こうして、見事に声が乗り移ったわけですな。



キリスト教では聖歌がある。
仏教ではお経が同じようなゴスペルのようなものかな。


木魚でドンドンドンドン・ポンポンポンと低音のリズムに乗せながら聞くお経は、脳の中に別の流れ(=ドン・ポン・ドン・ポン・ドン)を生み出して、この現実世界と違うながれをうねりのように混ぜ合わせてくる。そうして、現実は厚くつよいものになってゆく。


だから。
お経は詩のようなもので、詩人はお経読みのようなもので。

そのコトバと声の美しい流れの中に入り込む。
それは鳥や魚が躍動する動きのような旋律で持って、人の体内にスルリとイカのようなやわらかさで乗り込んでくる。



まあ。そんな風に。

詩人が読み解くお経はほんとうに詩そのもの。
小難しいことはなにもなく、明るく陽気に流れるようにお経を読む。
その中には自然に浄土や死のことがこっそりひっそりと、秘密の暗号(secret code)のように隠れていて、ごく自然に、ソバをツルリと呑み込むようにお経を読まされる。

そういえば。
比呂美さんの娘さん(カリフォルニア在住)が読み解く、英語交じりの般若心経の解説は秀逸だったなぁ。
「空クウ」の解釈なんて、ほんとかっこよかった。

この現実をuniverse(宇宙)へとzoom outして、zoom inする感覚って言ってた。
そういう風に、「色即是空、空即是色」(しきそくぜくう くうそくぜしき)を読み取ってて。


本の世界から声が聞こえてくる。
声が聞こえてこないと、本はただの紙。
声が聞こえてくると、本は「いのち」を持って、息づき、呼吸して、鼓動をうち、生きてる。
そんな感じ。


いやはや。
お経の良さだけではなくて、詩人の語りを通して文学の新しい地平線まで見せてくれるいい本だった。
こりゃ、きっと売れるわ。(もう1年前に出た本だから、とっくに売れてる。)