先日、あるお母さんがくれた長いメールの終わりに、
こんな言葉がありました。
《学校ではどうなるんだろう…。
とくに…ツライ思いをしていないかな、とか。
せめて「楽しかったよ」「イヤなことあったよ」だけでも
娘が伝えてくれないかなとか。
療育を今年2月で全て辞めスッキリしたはずなのに、
言葉がほとんど出てないことを気にしてしまうことを、
今もやめられません。
情けないなぁ、かっこ悪いな、
娘に悪いなと思います。》
娘さんはいま年長さんで、来年入学です(^^)/
私は、こんなふうに返事を書きました。
≫せめて「楽しかったよ」「イヤなことあったよ」だけでも
娘が伝えてくれないかなとか。
大丈夫ですよ。
学校で子どもがつらい思いをしていることや楽しかったこと、
Hさんのように、今から心配しているような“親バカ”には、
必ずいろんな形で伝わりますよ。
私の予言は、けっこうあたるんですよ。
≫言葉がほとんど出てないことを気にしてしまうことを、
今もやめられません。
情けないなぁ、かっこ悪いな、娘に悪いなと思います。
ここは、まだ、ことばで、うまく、伝える自信はないのですが、
Hさんが、「気にしている」ことの中身は、
「言葉がでてない」形ではなく、
もっと、別の心配だと思うのだけれど…。
それも「心配いらないよ」とちーちゃんが、
きっと伝えてくれるはずです。
これも、インチキな「予言」にしか今は聞こえないと思うけど(・_・;)
でも、地域の普通学級にいく、ということは、
そういうこと、のようですよ(^。^)y-.。o○
わたしも、うまく、ことばでは、伝えられません。
いつか、Hさんが、ことばにできたら、教えてくださいね。
それを、私は自分の言葉のように、
きっと誰かに伝えるんだと思います。
さも、自分が見つけたみたいにね。
≫「娘に悪いな」 ? か 。
娘といっぱい話したいと思うこと。
娘の気持ちやことばを聞きたいと思うこと。
それって、娘のうれしいこと、たのしかったこと、かなしいこと、
ふあんなこと、ゆめやあこがれ、いっぱい、いっぱい、話したり、
そばにいてみて、感じて、ずっとずっといっしょにそばにいて、
見守りたいと思う気持ちのことですよね。
それは、わたしもずっと娘におもってきた気持ちですよ。
私が、もうすぐ二十歳の娘にそう言ったら、
「キモ・ウザ」とか言われそうですが。
それは、「言葉が遅れている」とかいう
心配だけのことではないと思いますよ。
これも、うまく「ことば」にできません。
ことばは、こうしてやりとりできる便利なものだし、
大事なものだとも思いますが、
わたしは、娘との20年の暮らしの中で、
言葉より大事なもの、確かなものを、幸せなものを、
いっぱいいっぱいもらいましたよ。
…、何が言いたいんだか、
わき道に迷い込んでしまったので、この辺で。
□ □ □
この返事を書きながら、私は伊部さんを思い出しました。
いつものようにほろ酔い加減の伊部さんの声が聞こえました。
「でもよぉ、やっぱり、朝子にしゃべってほしいって、
思うんだよな~」
まだ20代の私は、
「えー、伊部さんがそんなこと思うんだー、なんで?
いいじゃん、朝子は朝子のままで」などと、
お気楽にベラベラ語ったのだと思います。
伊部さんは、そんなことはわかってるんだよという目で笑いながら、
「でもよぉ、やっぱり、何考えてんのか、
ことばで聞いてみたいことがあるんだよな」と繰り返しましたよね。
何にもわかっちゃいなかった私に、
いっぱい話してくれましたよね。
伊部さん、あのとき、
「朝子にしゃべってほしいんだよなあ」という声を、
私はちゃんと聞いていなかったんですね。
だから私は、伊部さんでも
「しゃべれる朝子を求めちゃうのかな」と間違えました。
やっぱり、「障害がない方がいい」と思うのかなと、
間違えました。
あれから、もう23年くらいかな…。
私の娘は今月、二十歳になりました。
そうして、やっといま、篤さんの声が、私に届きます。
伊部さん、私もいま心から思います。
朝子がしゃべってくれたらなーと。
朝子に、伊部さんのことを聞いてみたいなと思います。
伊部さんみたいな親父を、朝子はどう思っていたのか。
小学校も、中学校も、高校も、ずっと学校と闘っていた親父を、
朝子はどんな思いでみていたのだろうと。
朝子を映画館に連れていくのはいいけど、
ジュラシックパークなんて見せるから、
朝子が絶叫して硬直して、身体が座席から出れなくなって…。
「で、どうしたの?」
「上映中に、前の座席を取り外して、ようやく脱出!」
「すげー、迷惑(>_<)」
そんな会話を、朝子はどんなふうに聞いていたのだろう。
沖縄の日の丸裁判の応援にいき、
朝子が障害者だからと傍聴を認めない裁判所職員ともめているとき、
反対側で野次をとばす右翼の人たちを相手に、
ちゃんと事情を話す伊部さん。
右翼も裁判所も説き伏せてしまう親父を、
すぐそばで見ていた朝子はどう感じていたんだろうって思います。
伊部さん。
伊部さんが言ってたように、私も娘といっぱい話したいです。
娘の言葉をいっぱい聞きたいと思います。
楽しかったこと、悲しかったこと、好きなこと、
夢やあこがれ、不安、希望、
そして、また、私が娘がいれくれたおかげで、
どんなに幸せな二十年間という時間を生きることができたか。
それは、いま、言葉を話せる娘と、いうだけではなく、
1歳の娘、2歳の娘、3歳の娘、
…5歳、8歳、10歳、13歳、16歳…、
そして20歳のいま。その時々の娘と話したいと、
いつまででも思っているんですよね。
生まれたときから娘がだいすきで、いっぱいしゃべりたいと、
いつまででもしゃべりたいと、思ってきました。
でも、それは、私がこの年になって思うことで、
娘はそんな「ことば」を持ち合わせてはいないでしょう。
伊部さんと話したころの私がそうだったように。
娘が娘の人生をどう感じ、どう楽しみ、どう悲しみ、どう苦しみ、
どう希望にかえて、友だちに出会い、恋人に出会い、
どんな夢やあこがれをもち、
どんな夢やあこがれをあきらめてきたのか。
どんな夢をもち、何にあこがれ、何に挫折し、誰に出会い、
何をもらい、どんな人生を味わい生きているのか。
そんなことを、ゆっくり話してみたいと、心から思い願うこと。
それは、現実とはまた別の、親の思いなのですね。
私が親であることを、娘は生まれた時から、
どんなふうに感じて生きてきたのか。
そんな、自分でも言葉にできたこともないことを、
我が子とは語り合ってみたい。
そんなふうに思うんですね。
娘への思い。
あの時、伊部さんはただその思いをつぶやいただけで、
朝子の「障害」の話なんかしてたわけじゃなかったんだよね。
人が人に「こう、あってほしい」と望むことと、
今ある姿を否定することとは別の思いだと、
私は考えが足りませんでした。
だって、伊部さん。
私が、いま伊部さんと話したいと思うことは、
伊部さんに生き返ってほしいってことなんだから。
伊部さんが死んでしまったことをなかったことにしてほしい。
生き返らせてほしい。
そうして、もう少しだけ、一晩でもふた晩でも、話をしたい。
まだまだ教えてほしいこと、
聞いてほしいことがいっぱいあるんです。
伊部さん。
私たちはただ、目の前の子どもたちと一緒に、
人生を語り合いたいだけなんですよね。
しゃべらない子どもとも。
歩かない子どもとも。
いろんな子どもたちと一緒に、
「人生は楽しいか」、
「友だちはできたか」、
「何か手伝ってほしいことはないか」、
そんなふうに語りかけたいだけなんですよね。
伊部さん。
これでようやく、伊部さんととりあえずバイバイできます。
やっぱり、いないんだなーと、思ってしまいました。
でも、伊部さんの声は、いつも聞こえてますよ。
またね。
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