貧困問題とは、誰の、何の、貧困なのか (その1)
《ひとりひとりをちゃんと見てる》
「高校には行かない」
「働いて自立する」
その子は、そう言って15でここに来た。
ここで16と17と18の誕生日を祝った。
まもなく19の誕生日を迎えるのだが、その前に一人で暮らすという。
こころの準備は満ちたということらしい。
ここを出たい、と最初に言ったのは15の夏。
ここを出て結婚する、という。
結婚が無理なら彼氏の家の養子になる、という。
あなたのやりたいことを止める気はない。
自分の生き方は自分で決めたいよね。
それを応援するために私はこの仕事をしている。
ここにいる間は、あなたが自由にやりたいことを守れる。
なぜなら、ここでなら私が一番偉いから。
でも15で出て行かれると、私にはどうすることもできない。
15はまだ児相の手の内だから。
18になれば児相とも縁が切れるよと、児相には言いにくい話をした。
あなたは今までの人生を、どこで暮らすか、誰とどんなふうに暮らすかを、家族以外の他人によってすべて決められてきた。
そして、児相にも施設にも学校にも、「信頼できる大人」なんかいないという。
が何気ない話の中で「いい先生」という言葉を使うと、声に静かな怒りが混じった。
「学校にいい先生なんかいないんだよ」
それでも話しているうちに一人の先生を思い出して教えてくれた。
「一人だけいい先生がいた」
どんな先生?
「5年生のときの先生。あの先生は、一人一人の子どもをちゃんと見てた」
彼女の「いい先生」の基準は、「優しい」でもなく、「話を聞いてくれる」でもなく、「丁寧に教えてくれる」でもなく、「一人一人の子どもをちゃんと見てる」だった。
子どもたちにはいろんなことを教えてもらってきた。
大人が「一人一人の子どもをちゃんと見てる」かどうかを、子どもたちが感じているということ。
先生が自分を見ているか、ではない。
先生にはみんなの中の一人一人がちゃんと見えているか、を見ている。
そんな当たり前の大切なことを、私は忘れていた気がする。
大人が「子ども」のために、「何かをしてあげる」前に、その子のことをちゃんと見ていないと、その子が何を求めているかが分からない。
その子の声をちゃんと聴いていないと、その子が何をしたいのかが聞こえない。
(つづく)
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