トラウマとフルインクル(その95)
《「第5章 体と脳のつながり」から「ふつう学級」の意味を拾う》
子どもたちが、保育園や小学校で、「身につける」ものは、なんだろうか?
その前に、子どもには「親・養育者」が必要だということは了解されている。
「親が快適さと力の信頼できる源泉になってくれている子供は、一生に渡る強みを持っている。それが運命多もたらす過酷な試練に対する一種の盾になるのだ」(182)
「愛着は『安全基地』であり、子供はそこから世界へ乗り出していく…。安全な避難所を持っていると、自立心が育まれ、苦悩している人に対する思いやりの感覚や、助けになってあげられるという感覚が植えつけられる」(183)
その「安全基地」から、世界へ乗り出していく、その「世界」が「保育園」であり「小学校」だ。
そこで、仲間・集団という「世界」で生きていく自分のやり方を、子どもたちは身につけていく。
それは、「ことば」や「文字」や「計算」といったことに狭められる話ではない。
「私たちは、緊張あるいは弛緩、姿勢や声の調子、表情の変化からだけで、二人の人間の間で刻々と流動する関係を本能的に読み取る。
自分の知らない言語の映画を観ても、登場人物どうしの関係の本質がわかる。
他の哺乳動物(サル、犬、馬)についても、同じように読み取れることが多い。」(125)
「相手の顏の筋肉の動きや緊張、目の動き、瞳孔の拡張、声の高さや速さといった、会話の間に私たちが本能的に認識するこまごまとした手がかりのいっさい」を、子どもたちはふつう学級のなかで体験している。
障害児の話をしているのではない。
子どもの話をしている。
ふつう学級では「無理」とか「難しい」と言われる子は、「ことばが話せない、指示に従えない、逃げ出す、パニックになる」などと言われる。
その状況を、ほとんどの場合、子どもの「障害」のせいにされてきたが、私の体験では、「教師」の対応が無神経なことが圧倒的に多い。
学校の先生が、「ことば」でしか、子どもと話そうとしないからだろう。
でも、子どもは、顔の表情、目の動き、声の調子などのすべてで、強大な大人と、対峙している。
「人間は、身の回りの人間(ど動物)の情動の微妙な変化に驚くほど敏感だ。
眉の緊張や、目の周りのしわ、唇の曲がり具合、首の角度がわずかに変わっただけで、相手がどれだけ快適か、疑っているか、くつろいでいるか、おびえているかがたちまち伝わってくる」
「他者から受け取るメッセージが、『あなたは私といても安全です』であれば、私たちはくつろげる。
そしてまた、私たちは人間関係に恵まれていれば、相手の顏や目を覗き込むと、慈しまれ、支えられ、元気づけられるような気がする。」(130)
…ここに引用している言葉は、「ふつう学級の障害児」の親には、なんの説明もなしに、伝わるとおもう。
これらの引用文は、「障害児」についての本ではない。
「教育」の本でもなく、もちろん「ふつう学級」の本でもない。
「トラウマ」の被害者の治療と回復のための本だ。
ここには、私が出会ってきた子どもたちが、心から求めていたものが並んでいる。
8才のときの私が、必死で「みんなといたい」と願った理由が並んでいる。
ふつう学級に行きたいと願う子どもたちが、手をのばしていたものが、ここには並んでいる。
「他者といっしょにいて安全だと感じられることが、おそらくメンタルヘルスの最も重要な一面だろう。安全なつながりは、有意義で満足のいく生活の土台だ。」(131)
ふつう学級とは、「他者といっしょにいて安全だと感じられること」を、仲間と一緒に、四季の生活を通して体験するところだ。
ふつう学級とは、「メンタルヘルスの最も重要な」体験を保障するところだ。
ふつう学級とは、「有意義で満足のいく生活の土台」を、作る場所だ。
そこから、一人の子どもを「分ける」こと、「抜き出す」ことで、大人たちは何をしているかにあまりに無自覚ではないか。
まして、6才から18才まで、分けられた学校で成長したら、その分の「奪われた体験と土台」は、どこで手に入れることができるのだろうか?
そんなことをおもう。
「私たちの文化は、個性に注目するように教えるが、より深い次元では、私たちは個別の生物として存在することはほとんどない。……私たちのエネルギーのほとんどは、他者と結びつくことに捧げられている。」(130)
(つづく)
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