エピソード R4
最高のほめ言葉(2)
去年の秋に、一人暮らしを始めた子が遊びにきた。
ここ(ホーム)を出て行く前に、おいしいカレー屋さんに連れていってあげる、という約束が残っていた。4ヶ月ぶりに一緒にお昼を食べた。
最近、「ルポ児童相談所」を読んで、彼女に聞いてみたいことがいくつかあった。
4才の時母親が亡くなり、その前後からずっと「児相」と関わってきた子だった。
担当は何人も代わった。いろんな人がいた。
そのことを彼女は、「あの人たちはただの仕事だから」と言う。
そういうときの彼女の「言葉の強さ」は静かだが激しい。
幼いころからいくつかの施設で育ち、一日も早く施設を出たくて「高校には行かない」と決めた。でも中卒では就職もうまく見つからず、仕方なく十五でここにきた。
不本意にもまた「施設」にきてしまった彼女は、はじめのころ外泊をくり返し、結婚や養子になって出て行こうと画策した。
そこから少しずつ関係をつくってきた。
いまは19歳になって、念願だった「児相と切れて」、自分の人生を歩み始めている。
いまなら、児相や施設から距離もできて、いろんなことを聞けるかもしれないと思っていた。
料理を待ちながら「ホームにいたころより、少しやせた?」と聞いた。
「うん。だってホームにいたときは、何一つ不自由のない暮らしだったから」
そう言って、彼女は笑った。
……聞きたかったことがすべて飛んだ。
質問など何ひとつ残っていなかった。
あまりに想定外の言葉に泣きそうになった。
ふつうの十五歳の子は親がいて、家があって、高校に通っている…。
なのに、ここでは自分で働いて、一人で自立しろと迫る場所…。
「何ひとつ不自由のない暮らし」
そんなはずはないのに。
そんなはずはないと思いながら、心は安心する。
少なくとも彼女の記憶の中では、そう感じてくれる3年半の日々だったことに、心は静かに安心する。
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