おおかみと『生き心地の良い町』(4)
《「病、市に出せ」 手をかりるように 知恵をかりる世界》
なっち、やっち、いおりくんたちのかしこさ。
じゆうに まちをいく ぎじゅつを ささえるもの「たすけて」は はずかしいことじゃない
「てをかりる」は はずかしいことじゃない
いちねんせいのときから ずっと そう言われてきた
「たすけてほしいなら、向こうで」とは 誰もいわない
「てをかりるなら、ここじゃなく」とは、誰もいわない
困っている子がいたら みんなが いま ここで 手をかしてくれる
ふつう学級とは そういう場所だった
海部町がどんな町か。
書き始めたら、あれもこれも、と思う。急いで付け加えなければならないのが、「病(やまい)、市に出せ」という言葉。
【「病、市にだせと、昔から言うてな。やせ我慢はええことがひとつもない」。
母親の口癖であったという。
「たとえば借財したかて、最初のうちはなんとかなるやろと思て、黙っとりますわな。しかし、どんどん膨れ上がってくる。誰かが気づいたときには法外なことになっていて、助けてやりとうてもどないもできん、ということになりかねん。本人もつらいし、周囲も迷惑する」。】
千葉の就学相談会で、30年伝えてきたことは、このことだった。
とにかく、「要望書をだそう!」「公にしよう!」「みんなで一緒について行くから!」。
若いころは交渉の後、「この子のお父さんですか?」とよく間違われた。
「え~、違いますよぉ」とか言ってるうちはよかったが、「こんな年上のおば・・・」と口をすべらせては怒られていた。
【「病」とは、たんなる病気のみならず、家庭内のトラブルや事業の不振、生きていく上でのあらゆる問題を意味している。
そして「市」というのは、マーケット、公開の場を指す。
体調がおかしいと思ったらとにかく早めに開示せよ、そうすれば、この薬が効くだの、あの医者が良いだのと、周囲がなにかしら対処法を教えてくれる。
同時に、この言葉には、やせ我慢すること、虚勢を張ることへの戒めが込められている。
悩みやトラブルを隠して耐えるよりも、思いきってさらけ出せば、妙案を授けてくれる者がいるかもしれない。
だから、取り返しのつかない事態にいたる前に周囲に相談せよ、という教えなのである。】
この言葉は、せいぜい昭和一桁生まれの世代までらしい。
それでも大切なことは伝わっている。
四十代の女性が、子どものころから親や教師によく言われたという言葉。
「でけんことはでけんと、早う言いなさい。はたに迷惑かかるから」。
ここでの「迷惑」という言葉は、「ふつう学級に障害児がいると迷惑」という言葉とは反対の意味になる。
「手をかりることは恥ずかしいことじゃない」
「手をかりるように、知恵をかりればいい」
そういう言葉につながっていく。
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