未来へのことば(メモ2)
もう一人、テンプルグランディンさんの本から子ども時代のことをメモします。
◇
「あなたは十五歳のときに自閉症と告げられましたね。…それを聞いて自分自身についてどう思いましたか?」
「…自分がどこかおかしいということがはっきりわかって、内心、何だかほっとしました。学校ではほかの子たちとうまくやっていけなかったし、同年代の子たちがしていることが理解できなかったけど、そのわけがやっとはっきりしたから。…」
「幼いころは…?」
「よく、両手のすきまから砂をさらさら落として、それをずっと見つめていました。
科学者が顕微鏡をのぞきこんでいるように砂をひと粒ひと粒、じっと見る。
そうしていると、まわりの世界を全部締め出せるんです。
子どものころは、学校で癇癪を起すと、母からひと言、「今夜はテレビの『ハウディ―・ドゥディー』を見ません」と言われました。
私はふつうの学校に通っていました。
ひとクラスに生徒が十二人で、教室はわかりやすくシンプルな構造でした。
…学校で癇癪を起したら、その晩はテレビを見せてもらえないことだけは、よくわかっていました。」
☆
「私は5歳のとき、ふつうの子が通う規模の小さな学校に入学しました。
今日なら、普通学級に組み入れたといったところでしょう。
この選択は私にとって正解でした。
クラスの雰囲気が自分によく合っていたからです。
これは大切なことなのでおぼえておいてください。
その学校はかなり「構造化」された学校で、ひとクラスに生徒が十二人しかいませんでした。
子どもたちはお行儀よくするのが当たり前で、規則はきびしく、きちんと守らされ、違反すると罰が与えられました。
環境はとても静かで、よく管理されていて、強い感覚刺激もなかったのです。
この学校では、私は介助者がいりませんでした。
そういう教室を今日の学習環境とくらべてみてください。
大規模校で、ひとクラスに三十人もいるような、あまり「構造化」されていない教室・・・そんな学校だったら、私は一対一の介助者なしでは耐えられなかったでしょう。」
「いちばん大切なことは、子どもと直接かかわる人が、その子に合っているかどうか、です。」
「小学校時代の私には友達がいました。みんなが私といっしょに工作をするのが好きだったからです。
私は子どもたちが関心のある物、凧や木の上の小屋などをつくるのが得意でした。
…ところが、高校時代に深刻な問題が起こりました。
私はよくいじめられました。
子どものころは、いじめられると相手に怒りをぶつけていました。
「知恵おくれ」と言った女の子に本をぶつけて、大きな女子高から追い出されるという始末。
…十五歳の時に、…小さな全寮制の学校に転校したのですが、ここでも、いじめは一週間とたたないうちに始まりました。
同じことをくり返して言っていたため、「テープレコーダー」と言われたり、やせっぽちだったので「がい骨」と呼ばれたりしたのです。
そんなときはげんこつで仕返しをしました。
あるとき食堂で盛大ななぐり合いをして、そのあとに乗馬をさせてもらえませんでした。
馬に乗りたくてたまらなかった私は、喧嘩をしなくなりました。
それでも、腹の虫はおさまりませんでした。怒りのはけ口を見つけなければなりません。
どうしても気持ちを断ち切れなかったのです。
それで、いじめられたときには泣くことにしました。
…私は今でも、泣いて怒りを鎮めます。
仕事中に怒りを爆発させたら大目に見てもらえないでしょうが、泣きたいときには、人のいないところで泣けばいいからです。」
(「自閉症感覚」テンプル・グランディン NHK出版)
◇
テンプル・グランディンさんとダニエル・タメットさん、そして東田さん。
3人に共通しているのは、その著書が何十か国で発売されていること。
その才能が社会的に認められていること。
テンプルさんの「動物学博士」として、自ら経営する会社を通じて、世界中の動物施設の状況を監査に関わっている。
ダニエルさんの「計算の仕方」の描写も面白い。
「ある数を別の数で割ると、回りながら次第に大きな輪になって落ちていく螺旋(らせん)が見える。
…割る数が違えば、螺旋の大きさも曲がり方も変わる。
ぼくは頭のなかで視覚化できるために、13÷97のような計算も小数点以下第100位くらいまで計算できる(0.1340206………………)」
でも、私の興味は、その天才的な才能にあるのではない。
私の関心は、天才と言われ社会で認められる人たちが、語る自分の子ども時代の感情と、大人になってから自分をふりかえって理解する言葉。
そして、いま自閉症という状態に困っている子どもたちへの、言葉についてだ。
その人たちの共通する言葉は、私がここに書いていることが、間違ってはいないと、教えてくれる気がする。
今まで、漠然とそう感じてきたのだが、少しだけ自分の頭のなかを整理してみたい。
(つづく)
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