「アキレスと亀 異聞②」
若いアキレスは先にスタートした老いた亀を追い駆けた。アキレスは
すぐに亀に追い付いたが、亀を追い越そうとしたときに足元の亀を見失
って踏んづけてしまった。アキレスは亀の甲羅で足を滑らせ体勢を失っ
て翻筋斗(もんどり)打って倒れ込んだ。そして、
「あっ!痛ったー!」
不死の体を持つアキレスは踵(かかと)を押さえて転げ回った。
アキレスは生れた時、母が彼を不死の体にするために冥府を流れる川
に息子を浸したが、母はアキレスのかかとを掴んでいたためにそこだけ
は水に浸からず、かかとだけ不死とならなかった。
すると老いた亀は後ろを振り返って、
「よ若いの、前ばかり見てないで足元を見なきゃあ」
つまり、アキレスは亀を追い越すことが出来なかった。
それを遠くから見ていた敵軍の王子はしばらく考え込んだ後、
「そうか!アキレスは踵が弱いのか」
と言って手を打った。
後に、不死の体をもつアキレスはその弓の名手である王子に、あのト
ロイア戦争で唯一の弱点である踵を射られて命を落とした。
(おわり)