「アキレスと亀 異聞②」

2017-11-07 06:03:22 | 短編


       「アキレスと亀 異聞②」


 若いアキレスは先にスタートした老いた亀を追い駆けた。アキレスは

すぐに亀に追い付いたが、亀を追い越そうとしたときに足元の亀を見失

って踏んづけてしまった。アキレスは亀の甲羅で足を滑らせ体勢を失っ

て翻筋斗(もんどり)打って倒れ込んだ。そして、

「あっ!痛ったー!」

不死の体を持つアキレスは踵(かかと)を押さえて転げ回った。

 アキレスは生れた時、母が彼を不死の体にするために冥府を流れる川

に息子を浸したが、母はアキレスのかかとを掴んでいたためにそこだけ

は水に浸からず、かかとだけ不死とならなかった。

 すると老いた亀は後ろを振り返って、

「よ若いの、前ばかり見てないで足元を見なきゃあ」

つまり、アキレスは亀を追い越すことが出来なかった。

それを遠くから見ていた敵軍の王子はしばらく考え込んだ後、

「そうか!アキレスは踵が弱いのか」

と言って手を打った。

 後に、不死の体をもつアキレスはその弓の名手である王子に、あのト

ロイア戦争で唯一の弱点である踵を射られて命を落とした。

                          (おわり)