「アキレスと亀 異聞⑥」
アキレスは亀が来るのを待っていた。待っている間にこんな馬鹿げた
競争を引き受けたことを後悔していた。
「どう考えて見ても亀を追い越せないなんてことはあり得ないじゃない
か。これまで追い越せなかったのは競争以外のことに気を取られすぎた
からだ。もう次は何も考えずにただ走ることだけに集中しよう」
そこへノコノコと亀がやって来た。亀は、
「よぉ若いの、遅くなって申し訳ない」
と謝ったが、アキレスは何も応えなかった。亀は怪訝に思いながらゆっ
くり駈け出した。亀が居なくなってからアキレスもスタートラインに立
ったが、何を勘違いしたのかコースとは反対の方向へ駈け出した。
しばらくして亀がゴールしてもアキレスは現れなかった。亀は、
「いったい奴は何処へ行ったんだ?」
とその時、アキレスがコースの反対側からゴールを目指して全速力で走
って来た。つまり、アキレスは亀を追い越せなかった。それを遠くから
見ていたガリレオはしばらく考え込んだ後、
「そうか!地球は丸いんだ」
と言って、手を打った。
(おわり)