「アキレスと亀 異聞④」

2017-11-08 23:17:02 | 短編

           「アキレスと亀 異聞④」

 

 若いアキレスは先にスタートした老いた亀を追い駆けた。アキレスは

すぐに亀に追い付いて追い越そうとしたとき、亀が振り返って話しかけ

た。

「よ若いの、もう追い付いたのか。さすが速いね」

アキレスは、

「悪いけど先に行くよ」

すると亀は、

「まあ、そんなにあわてるなって。おれだって始めからおまえに勝てる

なんて思っちゃいないんだから」

その言葉を聞いてアキレスは立ち止まった。すると亀は、

「ところでおまえ、ゼノンのパラドックスって話知ってるか?」

「さあ、知らない」

「なんじゃ、主役のおまえが知らなけりゃあ話しになんねえだろうが」

「えっ、どんな話?」

「まさにこの状況がそうなんだけれど、おまえがおれに追い付くまでに

おれもそれなりに進んだだろう」

「いやあ、亀ってもっとのろいもんだと思ってましたよ」

「お世辞はいいから。つまり、おまえがおれに追い付くまでの間におれ

も更に前に進む」

「ええ」

「よく考えてみろよ、それを繰り返している限りお前はおれを絶対に追

い越せないってことにならないか?」

「そうかっ!」

アキレスは亀の話を聴くと忽ちパラドックスの呪縛に囚われて足が強張

って走れなくなり、亀の後をトボトボとついて行くしかなかった。つま

り、アキレスは亀を追い越すことが出来なかった。


                           (おわり)


「アキレスと亀 異聞③」

2017-11-08 00:25:07 | 短編


         「アキレスと亀 異聞③」

 


 若いアキレスは先にスタートした老いた亀を追い駆けた。アキレスは

すぐに亀に追い付いたが、亀を追い越そうとしてはたと立ち止まった。

目の前の道がふたつに分かれていたからだ。

「えっ!どっち?」

アキレスは亀の足跡をたよりに駆けて来たが、ふたつに分れた道のどち

らがゴールへ続く道なのかわからなかった。そこで、

「もしもし亀さん・・・」

後ろから声をかけられた亀は驚いて振り返った。そして、

「なんだ、ウサギじゃないのか」

「ウサギって何っ?」

「いや何でもない、勘違いした」

「・・・」

「ところで、いったい用は何だ?」

「あっ、そうだ。先に道がふたつに分かれているけど、コースはどっ

ちでしたっけ?」

「何を言ってるんだ、始めにちゃんと説明を聞いたじゃないか」

「そうでしたっけ?」

老いた亀は、

「右だよ、右側」

「ああ、思い出した!そうでしたよね」

アキレスは老獪な亀の言葉をそのまま信じていいものかどうか疑った

「そもそも競争している相手が本当のことを教えるはずがない」

そして、左の道を駆けて行った。

 しばらくして亀がゴールしてもいつまで経ってもアキレスは現れな

かった。つまり、アキレスは亀を追い越すことが出来なかった。

                         (おわり)