仮題「心なき身にもあわれは知られけり」
(7)
「ニヒリズム(虚無主義)」といえばニーチェを思い出さずには居
られないが、しかし「箴言(アホリズム aphorism)」という形式で
書かれた「断片」は門外漢の私には何を言っているのかさっぱり理
解不能だった.。ところが、ハイデガーが宿敵ニーチェの「ニヒリズ
ム」を驚くほど分り易く解説してくれている。ハイデガー著「ニー
チェ」Ⅰ・Ⅱ(平凡社ライブラリー)は、更に細谷貞雄監訳・杉田泰一
・輪田稔らによる優れた翻訳によってその概要くらいなら何とか掴め
ることができる。そこでハイデガーはニーチェの「断片」を拾い集め
てきてニーチェの「ニヒリズム」についての定義を分り易く解説して
くれる。ニーチェは「力への意志」第15巻145頁で、「ニヒリズ
ムとは何を意味するか――最高の諸価値が無価値になるということ。
目標が欠けている。《何ゆえに》(という問い)にする答えが欠けてい
る」と書き残しています。すると、ハイデガーはその断片を解説して、
「この短い手記にはひとつの問いと、その問いに対する答えと、その答
えの註解が含まれている。問われているのは、ニヒリズムの本質である
。答えは《最高の諸価値が無価値になるということ》となっている。こ
の答えからわれわれはただちに、ニヒリズムのすべての把握にとって決
定的なことを知らされる。すなわち、ニヒリズムはひとつの過程であり
、最高の諸価値が無価値になり、価値を喪失するという過程である。」
と解説します。
(つづく)