「英雄と極悪人」のつづき
今年は、イギリスとアルゼンチンの間で起こったフォークランド
紛争から30年目らしい。
[http://www.afpbb.com/article/economy/2868848/8716682 ]
アルゼンチン出身の作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスが、「2人のは
げ頭の男が、使うあてもないクシを奪い合っている」と皮肉った「
不毛」の争いはどうもそうではないらしい。確かにクシなら役には
立たなかったが、よく見るとそれは海底を掘削するための熊手だっ
た。周辺の海域に「莫大な埋蔵量が見込める油田が存在することか
ら、両国の間で再び緊張が高まっている。」更に、以前は採算が合
わなかった採掘も原油価格の高騰によって見込めるようになった。
つまり、辺境の不毛の島は今や海底資源をもたらす宝島へと変貌し
た。熊手を奪い取ったイギリスはさっそく採掘を行ない2016年
までには汲み上げを開始するという。一方のアルゼンチンはこのま
ま指を咥えて見ているだけとは思えない。事実、フェルナンデス・
アルゼンチン大統領はことある毎にイギリスへの非難を繰り返して
いて紛争が再燃しかねない。このことは、日本海に於ける竹島・尖
閣諸島の領有権争い、または北方領土の返還にも大きな影響を与え
ているに違いない。つまり、それぞれの国は、あるかもしれない海
底資源を日本に奪われないために目の色を変えて領有権を主張して
いるのだ。しかし、実のところは正確な埋蔵量や採掘による採算性
というのは実際に採掘して見なければわからない。「5企業がフォ
ークランド諸島周辺で試掘を実施しているが、これまでのところ大
量の石油埋蔵量が確認できたのは英国系開発企業ロックホッパーが
試掘した諸島北方のシーライオン油田のみだ。」それでも「推定埋
蔵量4億5000万バレル」、北海油田の原油推定埋蔵量130億
バレルと比べてみれば如何にショボイかが判る。例えば、皮算用を
して双方で多数の戦死者を出すような激しい戦争の末に、熊手を奪
った方がいざ試掘をしてみると、まったく採算に合わなくて、然も、
隣国との間に未来に亘って亀裂が生まれ、ではいったい何のために
多くの国民の命が犠牲になったのかということにもなりかねない。
やがて、我々の頭から毛が抜け落ちて、奪った熊手は使うあてのな
いクシだったということになるのだ。強欲に引き摺られて我々はそん
な愚かな争いに帰着するかもしれない対立に一歩踏み出そうとして
いる。
(つづく)