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以前、地域の広報誌に掲載したものを転載します。
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1)【そもそも、『TPP』って何ですか?】
『環太平洋戦略的経済連携協定』の英語の略語で、太平洋を取り巻く地域の国々で取り交わす『自由貿易協定』のことです。『自由貿易協定』というのは、貿易にかかる『関税』をお互いに無くすというのが主な内容で、今回のTPPは『例外なき、障壁撤廃』ということが特徴で、『関税以外の障壁』も一切撤廃する内容になろうとしています。[* つまり、外交や軍事などを除いた分野の、『環太平洋のEU(ヨーロッパ連合)版』を目指すという触れ込みです。]
似たようなものに、2国間の取り決めであるFTA(文字通り、「自由貿易協定」)があり、こちらはお互いの国の事情で例外品目が設けられています。他に、RPA(経済連携協定)があり、こちらは物流だけでなく、人や資本の移動、知的財産権の管理にもかかわっています。TPPはこれら人や金の移動も含めすべて自由にしようという取り決めを目指しています。
2)【自由貿易と関税の関係をもう少し詳しく教えてください】
『関税』というのは、外国のモノを輸入する際に、その品物の値段に10%とか20%とかの一定の割合でかける税金のことです。外国の豪華な贅沢品を、金持ちが買う際にかける税金という意味合いもありますが、関税の主な目的は『国内産業の保護』です。その関税を無くし、自由競争に任せようというのが『自由貿易』です。
農産物や畜産物の場合を考えてみてください。広い国土と農地をもって大規模経営をしているアメリカやオーストラリアなどの農業大国に価格面で対抗できるわけがありません。大量に《安い外国製品》が入ってきて、農業・畜産業は壊滅的な被害を受けます。
3)【日本の得意な工業製品をどんどん輸出して、食糧は安い外国製品を輸入すればよいと思いますが・・・】
穀物はこれからも世界的に不足する傾向があります。いつでも必要な食料が必要なだけ輸入できるとは限りません。今でもカロリーに換算した食料自給率が40%を下回るという危機的な状況の日本が、TPPに参加することにより、13%まで下がるという試算もあります。資本主義の国の中でも異常な低さで、こんな国はほかにはありません。
自国に必要な食料は国内で確保できるよう食料自給率をもっと上げるべきですし、国土を荒廃させないためにも日本の農業を保護すべきです。
林業は外国の安い木材の輸入によってすでに壊滅的な状況で、日本各地の山は荒れ放題です。最近の洪水の原因には、異常気象のほか、『森林の保水力』の低下があげられます。
4) 【『例外なき障壁撤廃』とはどういうことですか?】
現在、コメには778%、牛肉には38%超の関税がかけられ、国内の生産者が保護されていますが、TPPはどの品物も関税を無くすということから始まり、さまざまな規制をはずすことが求められます。
たとえば今、行われている農家などに対する保障や各種援助金も『関税外の障壁』ということで撤廃の対象になりますし、もっとも深刻なのは雇用環境への影響です。農業破壊はおろか、工業も安い賃金の海外に生産拠点を移し、仕事がなくなる上に、人の行き来も自由になり、海外の安い労働力が日本に入ってきます。賃金は発展途上国なみに引き下げられ、社会保障レベルも下げられ、非正規労働者が街にあふれます。
他に、さまざまな検討項目があります。例えば、TPPの条約文の『11章、政府調達』という項目によると、地方自治体を含む市町村レベルの公共事業までが『国際競争入札』の対象にされる可能性があります。『学校給食』が外国の企業に落札されるという事態も起こりうるわけで、農業ばかりか、地方経済も脅威にさらされることになります。
4) 【どうして、いまTPPの話が出てきたのでしょうか?】
一番の動機は、アメリカの意向です。TPPに一番熱心なオバマ大統領は、これにより自国の製品(農作物も)の輸出先を日本に的を絞り、貿易赤字を解消により経済の立て直しを図ろうとしています。
また、民主党の支持基盤は基本的に大企業です。日本の大企業も国境を越えて自由に儲けたいと考えています。
上記アメリカの意向をうけて、管首相の民主党政権が発足した当初、『平成の開国』とかいって、経済界の意向を受け、参加に前向きな姿勢を示したことに始まります。『バスに乗り遅れる』と『蚊帳の外』におかれるといっているのです。野田現首相もそうした声をうけて、早急に参加するかどうか話をまとめたいといっています。
アメリカは事あるたびに『日本の市場は閉ざされている』といいますが、関税率では日本はむしろ世界の平均よりはるかに低く、開かれた市場になっています。一方、『牛の全頭検査』に象徴されるように、安全のための規制をはずされたのではたまりません。
しかし、それによって恩恵を受けるのは一部の大企業で、利益は国民には還元されず、かたや『食の安全』が脅かされ、国内の雇用環境は悪化し、国土は荒れて一般国民は大きな被害を受けます。農業だけが被害を被るというのは正しくありません。
大事な点は、一般のマスコミがTPPの危険な内容をほとんど報道せず、『農協が反対している』-程度の事しか言わないことです。
東日本大震災や台風のため壊された農業・産業基盤の復興を最優先すべき時に、TPPへの参加なんてとんでもない話です。
【2011年8月記】