【 2019年12月19日 】 京都シネマ
時代は第一次世界大戦の、ヨーロッパの国々が2つに分かれ戦って時代から、戦火が収まろうとしていた時期。
文学に造詣が深く読書を夫に進める妻と、言葉少なく寡黙に働く夫。慎ましい生活をしていた夫婦の元に、召集令状が届く。
戦火が収まり、戦地から美しい田園地帯の故郷に戻ったはずの男はなぜか収監されていた。
夏のある日、軍判事・ランティエ少佐が男の収監されている留置場に調査にやってきた。その前の空き地で、黒い1匹の犬がしきりに吠えている。どうも男の飼い犬のようで、犬は主人が帰るのを待っているようである。
【 尋問 】
尋問をする軍判事。しかし頑なに黙秘を貫くモルラック。(軍の人間であっても、日本の社会状況では考えられないような個人の尊厳を大切にする扱いには文化や時代の違いを超えても、驚かされる。)
外ではいつまでも主人の帰りを待ち、吠え続ける愛犬。
戦いで功績をあげ勲章までもらったが、国家に対する反逆的な行為で軍法会議にかけられようとしていて、ランティエ少佐はその意図を調査に出向いてきたのだ。犬に愛着を感じる一方、ふと疑問を感じた少佐はその男、モルラックについて村を調べて回る。軍法会議にかけられれば国家侮辱罪で極刑を免れない。
国からもらった勲章を愛犬の首にかけたのだ。【戦争を仕掛けた国の上層部は無傷で、一般の罪もない庶民が戦争に巻き込まれた腹いせにやったこと】と世間的に思われていた。モルラックがなぜそのような行動をとったのか、なぜ弁明をしないのか、牢獄から出ようとしないのか・・腑に落ちない軍判事は粘りずよく真相を追う。例えば《酒に酔ったうえでのこと》だとか、何らかの突発的な理由が見つかれば減刑することができる-せめて軍人生活最後の仕事を後味の悪い役割で終わせたくない。
美しい田園風景と抒情的な描写。無駄のない展開と的確な演出と美しいスクリーン映像。名作だった。
【 犬と子供 】
戦争は、いつも人間-夫婦や兄弟、愛する人の間を引き裂く。それをテーマにいくつもの感動的で思い出深い作品が残されてきた。『向い風』(住井すえの小説)、『シェルブールの雨傘』(フランス映画)、『ある愛の風景』(デンマーク映画-「ある戦争」というタイトルでアメリカでレメイクされている)が印象深い。
この作品の原作は、『国境なき医師団』を立ち上げた医師で、小説家でもあるジャン=クリストフ・リュファンのゴンクール賞を受賞した小説だという。映画にも、その雰囲気が充分に描かれている。監督の略歴を見たら、『ピエロの赤い鼻』を撮った人だった。なるほどその人なっら味わい深い映画を作るはずだと納得する。
主役の軍判事、ランティエ少佐役の人、「何か以前どこかで観たような気がする」と上映中ずっと考えていたが、終わる前に思い出した。『最強のふたり』の車いすに乗っていた大富豪役の人だった。ちょうど同じ映画館の別のスクリーンで、ハリウッドのリメイク版で、元のフランス版とはちがう『THE UPSIDE』というタイトルで上映中だった。奇妙なめぐり合わせに意表を突かれたが、元のフランス版もなかなか面白い映画だった。
1年の最後に『家族を想うとき』、『2人のローマ教皇』、『再会の夏』と見ごたえのあるいい映画を3つも立て続けに見せてもらい、幸せな気分だった。
『再会の朝』-公式サイト