伊東静雄「寧ろ彼らが私のけふの日を歌ふ」全文
半紙
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全文は以下のとおりです。
寧(むし)ろ彼らが私のけふの日を歌ふ
耀かしかつた短い日のことを
ひとびとは歌ふ
ひとびとの思ひ出の中で
それらの日は狡(ずる)く
いい時と場所とをえらんだのだ
ただ一つの沼が世界ぢゆうにひろごり
ひとの目を囚へるいづれもの沼は
それでちつぽけですんだのだ
私はうたはない
短かかつた耀かしい日のことを
寧ろ彼らが私のけふの日を歌ふ
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やはり、伊東静雄の詩は難解ですね。
ただ「私はうたはない/短かかつた耀かしい日のことを」のフレーズに
詩人の切ない心情が込められているのを感じます。
昨日の詩、「咏唱」の、「寛やかな日はまたと来ないだらう」に通じる気持ち。
それらの「嘆き」「諦念」そして「激しい意志」などは
詩集「わたひとに与ふる哀歌」のいずれもの詩に共通するものです。
そこに共感しているのかどうか分かりませんが
何か書こうと思うと、つい伊東静雄の詩になってしまうのです。