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一日一書 498 野ざらし紀行 2・芭蕉

2015-01-30 17:22:42 | 一日一書

 

芭蕉「野ざらし紀行」より

 

半紙

 

 

本文は以下の通り。

 

 猿を聞(きく)人捨子(すてご)に秋の風いかに

 

いかにぞや汝、ちゝに悪(にく)まれたるか、母にうとまれたるか。

ちゝは汝を悪(にく)むにあらじ、母は汝をうとむにあらじ。

唯(ただ)これ天にして、汝が性(さが)のつなきを泣け。

 

【口語訳】(小学館版・「日本古典文学全集」による)  

猿の鳴声に腸(はらわた)をしぼる詩人たちよ、この捨て子に吹く秋の風をどう受けとめたらよいのか。


それにしても、お前はどうしたのだ、父に憎まれたのか、母に嫌がられたのか。

いやいや、父はお前を憎んだのではあるまい、母はお前を嫌ったのではあるまい。

ただこれは天命であって、お前の生れついた身の不運を、泣くほかはないのだ。

 

 

「猿を聞く人」というのは、口語訳にもあるとおり

「猿の鳴き声を聞いて、腸をしぼる詩人」ということですが

これは、有名は「断腸の思い」のことを言っています。

中国の「世説新語」という本にみえる故事です。

中国、晉の武将、桓温が三峡を旅した時、従者が猿の子を捕えた。

母猿は悲しんで、キイキイと悲痛な声をあげて、百余里を追いかけた

そしてとうとう船にとびうつったが、そのまま息絶えた。

その腹をさいて見ると、哀しみのあまりか、腸がずたずたに断ち切れていた、という話です。

 

何とも哀れな話ですが 、これが「断腸の思い」の本来の意味です。

この話は、中国でも、そして日本でも広く伝わり

「猿の声」は「(親が子を思う)哀しい思い」を起こさせるものとして

多くの文学者に愛された表現だったわけです。

 

ここで、芭蕉は、富士川のほとりで見かけた捨て子を

哀れと思いつつ、食べ物を与えて去ることしかできなかったのですが

その際に、この発句を読んだというのです。

 

最後の「汝が性を泣け」とは、ずいぶん突き放した言い方にも思えますが

そこにかえって、芭蕉の哀しみの深さをみる思いがします。

 


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