宮沢賢治
「曠原淑女」より
半紙
爪楊枝
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曠原淑女
日ざしがほのかに降ってくれば
またうらぶれの風も吹く
にはとこややぶのうしろから
二人のをんながのぼって来る
けらを着粗い縄をまとひ
萱草の花のやうにわらひながら
ゆっくりふたりがすすんでくる
その蓋のついた小さな手桶は
今日ははたけへのみ水を入れて来たのだ
今日でない日は青いつるつるの蓴菜を入れ
欠けた朱塗の椀をうかべて
朝の爽やかなうちに町へ売りにも来たりする
鍬を二挺ただしくけらにしばりつけてゐるので
曠原の淑女よ
あなたがたはウクライナの
舞手のやうに見える
……風よたのしいおまへのことばを
もっとはっきり
この人たちにきこえるやうに云ってくれ……