寒寒結水変作堅氷
流れ来しその水上に風さえていつ結びける氷なるらん
半紙
【題出典】『摩訶止観』五・上
【題意】 寒さ来たって水を結んで変じて堅氷となる(がごとし)
(迷いの故に法性が無明に変じるのは、)寒さが来て水が堅い氷に変化するようなものだ。
【歌の通釈】
流れ来たその水上に風が冴えて、いつ結んだ氷(無明)なのだろう。
【考】
無明は本来悟りであり、本質的に同一であることを、水と氷とによって比喩したのが題の文。その無明の迷いの根源はどこにあるのか、いつから始まったのか。それを川に流れる「氷」が水上でいつ結んだのかという趣向によって詠んだもの。
(以上、『寂然法門百首全釈』山本章博著 による。)
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「無明は本来悟りであり、本質的に同一である」というのが「摩訶止観」の教えだということですが、その真意はぼくにははっきりとは分かりません。
しかし、「無明」「悟り(法性)」という正反対のものが、実は本質が同じなのだということは、どこか示唆的です。世俗的なことでいえば、「愛」と「憎しみ」が、あっという間にひっくり返るなんてことがあります。
水がいつの間にか氷となる。それは、本質的な変化ではなく、じつは同じ者の二つの面なのだ、ということでしょうか。