未嘗睡眠
夢のうちにまどふ心を嘆きつつつゆ目もあはでいく夜明かしつ
半紙
【題出典】『法華経』序品(30番歌題に同じ)
【題意】 未嘗睡眠
未だ嘗て睡眠せずして
【歌の通釈】
夢の中では迷う心に嘆きながら、少しもまぶたを合わせることもなく、いくつの夜を明かしただろうか。
【参考】ぬる夜なく法を求めし人もあるを夢の中にて過す身ぞうき」(発心和歌集 未嘗睡眠……二五)
【考】迷う心を嘆きながら眠ることなく恋人を思い続けることと、迷いの世を嘆きながら仏道を求め続けることを重ねた。右の『発心和歌集』では、睡眠せず修行する菩薩とはかなく夢の中で過ごす人とが対立するものとして詠まれるが、ここでは両者を同質のものとして並行させて詠む。
季広「法門百首」は「昔よりまどろむこともなきものをいかでうき世を夢と見るらん」(続詞花集・釈教•雑・四四五/今撰集・雑・二〇九)と詠む。昔から睡眠せず修行してきたのに、どうしてこの世を夢と見ているのだろうか。目を覚ませばこのうき世こそ迷いのない世界であるといったもの。必ずしも恋歌として詠まれていないように思われる。
(以上、『寂然法門百首全釈』山本章博著 による。)