今年の直木賞を受賞した安部龍太郎さんと挿絵画家の第一人者、珠洲市熊谷町出身の西のぼるさんとの対談がラポルトすずで開かれた。
安部龍太郎さんの「等伯」が日経新聞に連載されていたときに挿絵を手掛けたのが西のぼるさんで、今回の対談は直木賞受賞記念として西さんの出身地である珠洲での開催となった。
珠洲市民としては非常に貴重な、もったいないくらいの企画である。
お二人の交流は古く、今日の対談は知り合った頃の話から「等伯」の中の挿絵に込めた思いやエピソード、能登や珠洲への思いなど幅広いテーマで展開されていった。
なかなか奥の深いやり取りが交わされたが、なかでも興味深かったは日経で連載中に3.11が起こり、小説にも挿絵にも影響を与えたという点だ。
安部さんは、3.11を近代文明の終わりと受け止め、小説に何ができるのかを問い、魂の救済につながる小説でなければ意味がないという思いに駆られたという。これが前半の苦難の中の家族愛の描写にもつながり、また作品をつくるという姿勢から、等伯の生き様に無心で迫るという執筆の姿勢の変化にもつながったという。
西さんはこの日、小説序盤の等伯が七尾を追われ都に家族3人で都に向かう途中、気多大社で奥さんの静子の病気の回復を息子の久蔵と祈る場面の挿絵を描いているところだったという。3.11はこの絵の構図に影響を与えたという。
対談全体を通して、やはりその道を極めている人同志の対談ということで、一言ひとことが重く、なかなか密度の濃い内容だった。
実はこの「等伯」、直木賞受賞発表の直後、書店で買おうと思って探し当てるとなんと「上・下」合わせて720ページほど。こりゃ積読になること間違いなしと購入をあきらめた経緯がある。
読んでから今日の対談を聞いた方がもっとおもしろかっただろうなぁと思っていたら、講演終了後、ロビーで「等伯」の販売とサイン会があるとのこと。ということで「よし読むぞ」と意を決して買わせてもらった。