生命哲学/生物哲学/生活哲学ブログ

《生命/生物、生活》を、システム的かつ体系的に、分析し総合し統合する。射程域:哲学、美術音楽詩、政治経済社会、秘教

創発と下向因果連関

2012年08月11日 01時01分11秒 | 生物哲学
2012年8月11日-2
創発と下向因果連関

鍵語:創発、下向因果連関、淘汰的システム、ドナルド キャンベル Donald Campbell。

 下記に、Blitz, D. "Emergent Evolution" (1992) の「(c) Supervenience and Downward Causation : Donald Campbell and Roger Sperry」の一部を訳出する。

******* はじまり

 それからCampbellは、創発と下向因果連関という二つの原理を加えた。それらは、彼が純粋な還元主義に同意しないことを印すものである。創発は有機的準位 organic level で作動し、それは無機物には還元され得ないと、彼は考える。すなわち、『生物進化は、宇宙の諸区分を曲がりくねりつつ探査するなかで、淘汰的な諸システムとして作動しながら、諸法則に出会う。そのような諸法則は、物理学と無機化学の諸法則によって記述されることはないし、また、物理学と有機化学の現在の近似的結果を将来置き換えたものによって記述されることもないだろう。』(1974: 180)。〔略〕 
下向因果連関は一つの制約的要因であり、より低い準位の現象の広がり prevalence と分布に影響する。すなわち、『自然淘汰が編制のより高い準位で生と死を通じて作動するところでは、その高準位の淘汰的システムの諸法則は、より低い準位の事象〔出来事〕と物質の分布を部分的に決定する。』(1974: 180)。そのように定式化されたので、下向因果連関は、生物学的システムにだけ適用された。
 Campbellの付随性 supervenience という創発主義的概念は、『付随性と法則律的通約不可能性 Supervenience and Nomological Incomensurability』(1978)と『心理的付随性 Psychological Supervenience』といった記事におけるJaegwon Kimによる用語のきわめて異なった使い方とは混同されてはならない。〔略〕 Kimの理論では、付随する性質とは通常は心的な性質であって、通常は物理的な性質である付随される性質とともに変異する。付随されるまたはより下の準位の質は、付随するまたはより高い準位の性質を統御するのであるが、それは創発的というよりは付帯現象的 epiphenomenal と記述されるほうが良かっただろう。

[Blitz 1992: 160-161。試訳 20120811。]

******* おわり/


創発と還元主義

2012年08月11日 00時00分56秒 | 生物哲学
2012年8月11日-1
創発と還元主義

鍵語:創発、還元主義、構成的還元主義、説明的還元主義、理論還元主義、エルンスト マイア Ernst Mayr。

 下記に、Blitz, D. "Emergent Evolution" (1992) の「(d) The Autonomy of Biology: Ernst Mayr」の一部を訳出する。

******* はじまり

 Mayrは自身の生物学の哲学では創発を採用したけれども、還元主義のいくつかの形態には反対しなかった。『生物学思想の成長 Growth of BIological Thought』(1982)では、構成的還元主義 constitutive reductionism、説明的還元主義、そして理論還元主義を三つの明確な型として彼は考察した。有機体〔生物体〕の構成要素は物質的であり、無機的化合物の構成要素と同じ本性だと、構成的還元主義は主張した。Mayrはこの型の還元主義を受け入れ、その、有機物と無機物との間の区別は、物質の問題ではなくてむしろ編制 organization の問題だという見解を受け入れた。
 説明的還元主義は、生物学的存在者は、その基本的構成要素(有機体の場合には高分子)に分析されない限りは理解できないと主張した。Mayrは、或る主要な場合で、つまり、CrickとWatsonの遺伝子をその基礎であるDNAへと分析するという場合で、このアプローチ〔接近〕が成功であったと認めた。しかし、Mayrは『生物学のすべては分子生物学である』(1982: 60)というもっと進んだ主張は退けた。より高い準位のシステムは自律的単位であるという事実、そして或る程度それなりに、より低い準位のシステムからは独立しているという事実を、それは無視しているからであった。そのうえ、説明的還元主義は、進化の歴史的次元を十分に考慮することはしない。そのことは、説明的還元主義の生物における適用への二番目の制限である。
 Mayrは、最初の二つの型の還元主義にはいくらかの信用を与えたのに対して、生物学は物理的および化学的諸理論の特殊な事例だと示すことができるという『理論還元主義的』主張は退けた。
[Blitz 1992: 162-163。試訳 20120810。]

******* おわり/