昨二十六日月曜日は初冬のような陽気。加えて、ときおり横殴りの暴風雨。そんな悪天候の中を、横浜へ行かなくてはなりませんでした。
横浜というと、いつも厄日だの、そうではないだの、と考えさせられてしまいます。
毎日のように通っているのであれば、愉しいこともあり、不愉快なこともあって当然ですが、一か月に一度か二度しか行かないのに、私が行くときは必ず何かよからぬことがあるというのが不思議です。
台風20号が小笠原諸島に接近中というので、勤め先を出るときから何かあって当然と覚悟していましたが、西船橋で武蔵野線から総武線に乗り換えようとすると、プラットホームは黒山の人でした。
聞けば、中野駅で車両点検があったので、遅れているというアナウンス。
理由を聞かされたところで仕方がないが、何もないのに車両点検をする必要はないはず。何かがあったから車両点検しなければならなかったのではないか。その何かがなんであるかをいわないのがJRの常套手段。JRは正しい日本語の使い方を勉強せい、と心の中でぶつくさ唱えながら、横浜とは逆方向の船橋へ。
西船橋には停まらない横須賀線直通の電車で、横浜駅まで直行しました。
この日は貨物の引き取りではなく、引き取るために必要な書類をもらいに行くのが仕事です。
私の勤め先の最寄り駅から横浜へ行く方法は三つ。
1、東京駅直通の電車があれば、東京駅で東海道線か京浜東北線に乗り換える。ただ東京駅での乗り換えはとんでもない距離を歩かなければならない。
2、西船橋で総武線に乗って、秋葉原で京浜東北線に乗り換える。
3、西船橋で総武線に乗って、市川か船橋で横須賀線直通に乗り換える。
東海道線と横須賀線を利用したときは横浜で京浜東北線に乗り換えなくてはなりません。
で、昨日は3を選択。横浜まで横須賀線を選んだのは正解でしたが、横浜に着くと、何があったのか京浜東北線も遅れていました。すでに十一時が迫っていました。この日の目的地は桜木町まで行って、さらにバスに乗らなければならないところです。
海運会社は十二時ではなく、十一時半から昼休みに入るのが通例です。十一時半までに着けないと、午後一時まで待たなければなりません。
十一時半に着けるかどうか。いつも綱渡りをするような思いなので、どこかの駅で電車のドアが閉まらない。何があったんだ? と思ううち、「時間調整です」とのんきそうな車内アナウンスが流れるだけで、私の血管は沸騰し、テンションは上がってしまいます。
こうして時間にヤキモキさせられるぐらいなら、もっと早く出ればいいのに、と思われるかもしれませんが、書類をもらうためには船賃を支払わなければならず、その仮払いを受けてから勤め先を出るので、電車に乗るのはどんなに早くても、九時半ごろになり、横浜に着けるのも十一時ごろになってしまうのです。
桜木町駅から横浜市営バスに乗って、みなと赤十字病院入口という停留所で降りました。乗車時間は十分程度のものですが、乗車中は時間とせめぎ合いです。
雨の日のバスは必ず遅れます。遅れると、本来なら間に合わなかったはずの人が間に合ってしまって、乗り降りに時間を取られ、ますます遅れ、ヤキモキさせられます。
バスを降りると、大変な雨風になっていました。倉庫群に遮られて海は見えませんが、紛れもなく海が近いので、風はいっそう強いようです。
大型トラックやコンテナトラックが水煙を上げて傍若無人に走り回っています。信号待ちをしていると、水飛沫が5メートルは飛ぶのが見えます。
傘を差して歩いているような酔狂な人間は私以外にはいないようです。
幸い海運会社の事務所には十一時二十九分、一分前という奇跡的時刻に着いて、無事書類を入手することができました。しかし、私の靴はすでにずぶ濡れ。スラックスも太股あたりから下はずぶ濡れ。肩から提げた鞄もずぶ濡れです。
事務所を出たら、具合の悪いことに胃が痛くなってきました。突風の吹きまくる中で、鞄から太田胃散の缶を出し、服用しようとしました。
以前は分包を携帯していましたが、量(1・3グラム)が少ないせいか、効き目が実感できない。で、スプーンですくって服む75グラム入りの缶を携帯するようになったのです。
左の首根っこで傘を支え、右肩にかけた鞄の取っ手がずり落ちないようにしながら、左手に缶と缶の外蓋と中蓋を持って薬を服むのはなかなかに至難の業、と思っていたら、足許から突風の来襲。
スプーンにすくった薬を跳ね飛ばしてしまいました。あっと思った瞬間、スプーンまで飛ばされてしまった。
総武線が遅れたのは横浜のせいではない。京浜東北線の遅れも横浜のせいではない。雨も横浜のせいではない。風は多分横浜のせいだが、恐らく海岸近くに限ってのことだろうから、横浜全体のせいではない。
しかし、私が横浜にくると、二回に一回はこの手の不都合がある、というのは一体どういうことなのだろうと訝るばかりです。
とはいえ、私は横浜を嫌いになったりはしないのです。できることなら一日のんびりと観光で訪れてみたい。
中華街は格別行く気にはならないけれど、関内から桜木町に向かう道筋に、中華料理店が軒を並べている一画があって、そのうちの適当な一軒に入って食事をしてみたい。いつも横浜へくるときはセカセカしていて、ゆったりと昼飯を食うこともないので……。
伊勢佐木町あたり、一本路地を入った人気(ひとけ)のない店で酒を呑んでみたい。
港で船も眺めてみたい。客船よりは貨物船。沈みそうに思えるほどに荷を積んだデカイ船がいい。