七日の昼、私は新京成電鉄、東武鉄道、北総鉄道の三線が交差する新鎌ヶ谷(しんかまがや)駅前にいました。
日曜日なので、散策に出て、ついでにまたスーパー銭湯へ行こうかと考えて、タオルやら石鹸やらを用意してトートバッグに詰めたのですが、この日は昼に近づくのに連れて次第に風が強くなって、やがてゴウゴウと音を立てるほどになりました。
で、出かけるのをためらっているうちに、十時を過ぎ、十一時を過ぎてしまったのです。
そんな私が何用あって鎌ヶ谷に?
今日の散策はどうしようかと自宅で逡巡している間、携帯電話に着信あり。
休みの日に携帯が鳴るのはロクなことではない。嫌な予感に胸を塞がれるような思いで携帯端末を開けると、案の定、勤め先の長(おさ)からでした。
急な注文がきていて、出荷する商品に細工を施す必要があるのだが、細工をする機械の操作がイマイチわからない。つまり、出勤してくれないか、というのです。
仕方がないと腰を上げましたが、駅の改札口が見えるあたりまで行くと、人だかりがあって、ちょっと妙な雰囲気でした。普段は待ち合わせをするような人はいなくて、人だかりなどない駅です。
改札口に近づくのに連れて、電車の時刻を報せる電光掲示板に、強い風のため、「武蔵野線運転見合わせ」という赤い字が点滅しているのが見えるようになりました。
電車が動いていないのでは出勤できない。残念ではあるが、ラッキー! と思って勤め先に電話。
ところが、今日はどうしてでも出勤してもらいたいようです。
電車を乗り継いで、勤め先に一番近い新鎌ヶ谷駅まできてくれれば車で迎えに行く……。というわけで、私は縁も所縁もない場所に立つことになったのでした。
武蔵野線は動いていないので、常磐線で松戸へ行き、新京成に乗り換えて、三十分少々で新鎌ヶ谷に着きました。
不思議というか、まだ親方日の丸の体質を残しているのではないかと慨嘆するのは、運賃が高いと評判の悪い北総開発鉄道、それに新京成、東武、つくばエクスプレス、流鉄と、近くを走る私鉄は同じように強風に晒されているのに、みんな動いていることです。運転を見合わせているのは武蔵野線だけ……。
とくに運賃が高いと評判の悪い北総開発鉄道は、千葉県に入るとしばらく高架を走ります。武蔵野線と交差する東松戸では武蔵野線よりさらに高いところを走っているので、強風に晒されるという点では武蔵野線より厳しいかもしれません。それがちゃんと走っているのに、一人武蔵野線だけが止まっている。
JRは民営化されたのですから私鉄になったはずだのに、私鉄とはいわないのはこのあたりにあったのでしょうか。
武蔵野線が止まったり遅延するのは日常茶飯事です。
武蔵野線の名誉のために、正しくいえば、止まるのはほんのときたまのことなのですが、利用者からするとしょっちゅう止まるような気がする。
現にこの週は、翌月曜の朝は接続する京葉線で急病人が出たからという理由で十分近い遅れ、火曜の帰宅時は新八柱-新松戸間の沿線で自動車事故が起きた(?-踏切などないのに)というわけのわからない理由で約三十分間の運転見合わせ、と三日連続でした。
北総開発鉄道の高架下にある新鎌ヶ谷駅入口。通路はトンネル状になっているので、ものすごい強風が吹き抜けていました。
駅前で待っているうち、市の花「ききょう」という標示があるのを見つけました。いまは土が剥き出しになっているところ、桔梗の根っこが春を待っているのでしょうか。
鎌ヶ谷と桔梗にはどんないわれがあるのか。
臨時出勤を終えて家に帰ったあと、鎌ヶ谷市のホームページを見てみると、梨の花とともに、桔梗が市の花に制定されたのにはとくにいわれはなく、市民による投票で決められたとのことです。
何かいわれがあったらもっと愉しかったのですが、ともかく、これで私との縁ができました。
桔梗を1位に選んでくだすった鎌ヶ谷市民に幸あれ。
桔梗の咲く季節がきたら、再度訪問してみなければなりますまい。
ただ、気になったのは、市の木のほうは「モクセイ」となっていて、キンモクセイの画像が用いられていることです。
厳密にいうと、モクセイという木はこの世にはなく、ギンモクセイ、キンモクセイ、ウスギモクセイを総称するときの呼び名で、普通モクセイとだけいう場合はキンではなく、ギンモクセイを指します。
サクラを市の木や市の花にしている自治体も多いのに、「サクラ」という木もこの世にはないではないか、といわれるかもしれませんが、私が危惧したのは、日が満ちて桔梗観察に繰り出したところが、一面咲いているのはキキョウではなく、トルコギキョウ……なんてことになるのではないか、ということ。
新鎌ヶ谷駅前の風景。
さりげない感じで立っている人がいますが、時折猛烈な風に見舞われているのです。
駅周辺には畑がないので、空気は澄んでいるように見えましたが、駅前を一歩離れると、中国の黄砂もかくやと思わせるような砂塵が舞っていました。
そういえば、二年前の引っ越し当日(二月二十七日)もものすごい砂嵐でした。
鎌ヶ谷を中心とした地域は台地状で、水の乏しい土地です。田圃はなく、畑しかありません。毎年春先に一日か二日、突風の吹き荒れる日があって、そういう土地柄ですから、視界を遮るような砂塵が巻き上がります。
確かに一日か、せいぜい二日です。
当日は大いに難渋しますが、過ぎ去ってしまえば忘れてしまう。
電車を止めないようにする工夫はないことはないが、風を防ぐための設備投資には大変なお金がかかるし、投資したところで回収できる見込みはない。
JR内部には、その一日がきたら、電車を止めてしまえばいいや、と考えている人がいたりして……。
それにしても、北総開発鉄道が走っているのに、走らない武蔵野線は非常に不思議です。
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