新松戸の駅から歩いて五分ほどのところに、平日は午前零時にならないと開店しないという変なバーがあります。
「変」というのは開店時間のことで、ほかは特別「変」ということはありません、為念。
午前零時という遅い時間に店を開けてもらったのでは、勤め人の私はまず行けない。
土日はもっと早い時間に店を開けるようですが、休みの日にわざわざ出て行くのはかったるい。で、ますます縁のない店になっていました。
新松戸に引っ越してきた日、炊飯器もお米も、私にとっては何より大事な二階堂(麦焼酎)の一升瓶も、すぐ見つけられるように段ボール箱に詰めてきたつもりでしたが、見つけられません。
仕方がないので、新しい自宅(マンションです)前にある弁当屋さんから弁当を取って腹ごしらえをしたあと、周辺の散策に出ました。まだ自分の棲家という実感はなく、旅行に行って、ホテルから物見遊山の散歩に出るような気分です。
日曜日だったので、その店は早い時間から開いていました。初めてでしたから、軽く呑んで、とくに話し込むこともなく帰りましたが、あとで「変」だったことを知りました。
毎日の通勤ではその店の前はほとんど通りません。再び行く機会のないまま月日が経ちました。
ほとんど忘れかけた最近になって、たまさか土曜日に、近辺の店で呑んで遅くなることがあり、通りかかったら電気が点いていましたので、覗きました。
五か月ぶりでした。私のことなど憶えてくれているわけがありません。「三ノ輪の桜……」と切り出したら、思い出してくれました。
初めて行ったとき、そろそろ桜の季節だったので、近辺の桜情報を聞いたのでした。
へそ曲がりの私は、名所といわれるところには興味がありません。たくさん咲いている桜が鬱陶しいというのではない。そこに集まる人が鬱陶しいのです。
それより、そこそこの数の桜はあるものの、豪勢さとはほど遠いから、下にムシロを布いて宴会……などという連中もいないような桜がいいと思うのです。そんな桜並木が東京・三ノ輪のオリンピックというスーパー近くにあるよ、という話をしたのでした。
そんな桜なら是非見てみたい。みんなを誘って行きますよ……という話になりました。そういうことになると、自信が揺らぎます。果たしてみんなでワーッと出かけて行くような桜だっただろうかと思い始めるのです。
人前では褒めそやした私もじつはとっくりと見たわけではありません。買い物ついでに自転車で通りかかって、チラッと見ただけ。穴が開くほど見るのではなく、チラッと見たからこそいいものがあるのかもしれぬ。
でも、まあ、実際の花見までは半年以上あります。これから何度か通ううちに、新しい展開があるかもしれない。
それから勤め帰りに、ときおり店の前を通ってみることにしました。時間は夜の八時前後です。
一日二日はまだ店が閉まっていました。そのときは開店はもう少し遅いのかもしれないと思いました。
九時過ぎに通ったことがあります。そのときも開いていない。定休日だろうかと思いました。
十時近くに通ることがありました。その日も開いていない。いくらなんでもこれはおかしい……ひょっとしたら、と思ったころ、やっと店が開いていて、「変」な店だということが判明したわけです。
店の写真をつけなければ、と思って、敬老の日の夕方、カメラ片手に散歩に出ました。店の前に到っておもむろにシャッターを押したところ、カメラにメモリカードを入れるのを忘れていました。
仕事の往き帰りには店の前を通らないので、写真は週末までお預けです。
代わりに我が家から睥睨する市街を載せてみましたが、マンション群に遮られて何も見えません。
手前は武蔵野線の貨物線です。
週末になると団体列車やお座敷列車が通ったりします。朝だというのに、テーブルに置かれた紙コップに麦酒の注がれているのが見えたりします。
人の眼におぢさんの文章が触れる事は嬉しいですな。
消失した諸々は、残念ですがお忘れになって…
この日記がまた更新されるのを楽しみにしています。