細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文(14) 「ストック効果の重要性」 藤田 光(2022年度の「土木史と文明」の講義より)

2022-10-21 04:52:18 | 教育のこと

「ストック効果の重要性」
藤田 光

 今回の土木史と文明の授業では、主にトンネルについての授業であったが、それに関連して様々なことを学ぶことができた。

 今回の授業では、まずストック効果についての話題があった。参考文献*1によると、ストック効果は、「整備された社会資本が機能することで、整備直後から継続的かつ中長期にわたって得られる効果」と記載されている。今回の授業ではトンネルというテーマということもあり、山にトンネルを切り開くことで輸送のスピードを速めることで移動時間の短縮等による「生産性向上効果」におけるストック効果についてかなり学ぶことができた。一方で、*1の参考文献を読んでいて防災から国土を守る働きをしていることを改めて実感した。まず具体的には、首都圏外郭放水路が挙げられる。首都圏外郭放水路の整備により春日部市の浸水戸数が約7000戸(昭和50年(1975)~59年(1984)の平均)から約500戸(平成7年(1995)~26年(2014)の平均)に減少した。首都圏外郭放水路が完成したことにより中長期に渡り洪水の被害を減らしているという点から首都圏外郭放水路は立派なストック効果を果たしていると言える。また、近年は、川沿いの公園に遊水地を設け、川の水が増水をする際にはその遊水地に水が入るようにし、川の氾濫を防ぐ取組みが進んでいる。1つの土地を場合に応じて使い分けるように設計し、より土地の効率性をことも今後はますます重要になっていくのではないかと感じた。さらに、防災の場合、大学の近くは崖が多いが抑止工、抑制工を用いて対策を行っている所もあり、それにより中長期で人々の暮らしが災害から守られている。勿論、上記に記した遊水地の建設や急な斜面における抑止工や抑制工等の対策も立派なストック効果であると考える。

 今回の授業では青函トンネル、丹那トンネル、深良用水のトンネルや青の洞門等、数多くのトンネルについて実際に学んだ。その中でも丹那トンネルは世界でも稀な難工事であり、掘削スピードが非常に遅かったことから詳しく調べてみた。

 丹那トンネルは、東海道本線の熱海駅〜函南駅間に横たわる全長7804mのトンネルで、昭和9年(1934)に開通した。複線トンネルとしては当時、日本一の規模を誇っていた。

 明治42年(1909)に輸送力が逼迫し、早期改善が急務とされていた御殿場回りの東海道本線を代替えする路線の検討が行われた。大正2年(1913)に熱海経由のルートが決定、測量に着手した。大正7年(1918)に工事費770万円が計上され、同年3月21日、熱海町の梅園付近の坑口予定地で起工式が行われた。丹那トンネルは排煙効果の高い、また、脱線事故等に際しての復旧作業を考慮し、NATMで掘削するという当時の技術では画期的な工事だった。掘削では削岩機を利用する予定だったが、第一次世界大戦による好景気により電力価格が高騰したことため、工事はカンテラ照明の中でツルハシを使用した原始的な手掘りで開始された。その後、蒸気機関を利用した空気圧削機が採用され作業効率が飛躍的に向上した。建設現場に電力供給が行われるようになったのは大正10年(1921)のことであった。照明が電灯に切り替えられたほか、牛馬に頼っていた余土輸送にも電気機関車が利用されることになった。

 しかし、トンネルの掘削は大量の湧水との闘いとなり、崩落事故、関東大震災、北伊豆地震なども加わり、難工事を極め、多数の死者や負傷者も発生した。また、温泉余土という水を吸収して膨張する岩石にも悩まされた。

 そのような中、工期は16年に及び、総工費は2600万円と膨れたが、幾多の困難を乗り越えて昭和8年(1933)に貫通し、翌9年12月に開通した。丹那トンネルの開通により、東海道本線は熱海経由となり走行時間が40〜50分も短縮された。同時に電化も行なわれた。このような丹那トンネルは現在も旅客の輸送に使用されているため、その時点でもかなりのストック効果を発揮していると言える。また、私自身も丹那トンネルを何回か利用した時があるが、そのことを知ってからはいつもそのトンネルを通る度に先人への感謝の気持ちを感じて利用させていただいてもらっていると同時に、自分も将来そのような立派な土木構造物を作ることで社会に貢献したいなと感じている。

 また、最近では相鉄・東急直通線のトンネルも個人的にはかなり気になっている。実際に、昨年の4月には綱島トンネルへ、今年の6月には新横浜駅の現場見学に行ったが、かなり迫力があった。

 まずは、綱島トンネルでの経験から述べる。綱島トンネルを見学した時は学部1年の入学したての時であった。まずは、ヘルメットを被り、安全チョッキを着て、軍手をはめてから現場に入った。工事現場では様々な作業車が動いており、周りの音がかなり大きかった。また、トンネル内は外の気温よりも暑く、トンネルの中は酸素濃度が少ないと感じた。この時に人生で初めて現場の臨場感というものを知った。また、シールドトンネルのセグメントの合成部について実際に見ることができた。また、その当時はトンネル内部に水が出て来る様子を多数見つけ、どうしてその現象が起きているのかについても気になったが、土中には地下水が含まれており、そこの部分を掘削するとき等に地下水が出水して来てしまうということを学んだ。今回の授業においても青函トンネルや丹那トンネルの建設においては地下水の流出が大問題であり、この問題により建設に時間がかかってしまったことも学んだ。トンネル建設と地下水との闘いは昔から続いて来て、現在は人間側の技術進歩により昔ほどは地下水の出水に悩まされることは少なくなったが、それでもまだ地下水との闘いは続いているということを改めて実感させられた。

 次に、学部2年の6月に訪問した新横浜トンネルでの経験を述べる。今年の6月に訪問したため、トンネル工事は全て終了していて駅のコンコースや階段、エレベーター、エスカレーターの建設工事、線路・枕木の工事等を行っていた。そのような駅における設備も生活を支える上で重要なものであるということを再認識させられた。また、周辺に既に様々な設備が立体的にある新横浜駅ではそれらの設備との関係も考えた上で建設をしなければいけないため、都市部で構造物を建設する際はその部分も大変であることを学んだ。

 相鉄・東急直通線は、横浜地域での開発なため、かなり身近に感じた。実際に、開通するとかなりの効果を発揮するものと考えられる。現在の相鉄・JR直通線は朝ラッシュの時間帯は毎時4本、その他時間帯は毎時2~3本である。相鉄・東急直通線は、朝ラッシュ時間帯の運行本数が毎時14本、その他時間帯は毎時6本(新横浜始発、新横浜止まりの電車も含む)になるとされている。そして、この事業が開通することにより相鉄・東急直通線が開通されることで相鉄線から東急線、埼玉高速鉄道線、都営三田線(東京都交通局)、東京メトロ南北線、東武東上線が直通で繋がることで輸送時間の短縮、沿線地域の賑わいがより増えるのではないかと考えている。また、相鉄・東急直通線は首都圏を走っている周辺の路線に不通区間が生じた際の重要な振替輸送ルートにもなり得るとも思った。さらに、新横浜駅に新駅が設置されることから新幹線へのアクセスが向上するという大きな利点もある。私自身の生活も相鉄・東急直通線が開通されることによってかなり変わると考えている。私は小田急沿線に住んでいて、現在は大和駅を経由し、上星川駅か和田町駅から通学をしている(講義棟の場所などで使い分けている)が、相鉄・東急直通線が開通したら羽沢横浜国大駅を利用しようと思っている。理由としては、現在、西谷~羽沢横浜国大駅間の昼間の本数が20~30分に1本ほどだが、相鉄・東急直通線が開通することで西谷~羽沢横浜国大間を通る電車の本数が昼間の時間でも毎時6本になるからである。また、羽沢横浜国大駅には全ての種別が停車するため乗り換え回数が減り、より所要時間が短くになること、羽沢横浜国大駅と上星川駅を比べてみた時に土木棟までにかかる所要時間が5分程度羽沢横浜国大駅を利用した方が早いことが挙げられる。

 上記に記したことから、相鉄・東急直通線も開通したら人々に愛用される重要なインフラとなり、中長期に渡り、立派なストック効果を発揮すると考えられる。

 今回のレポートではストック効果について取り上げさせていただいたが、レポートを書きながら私自身も改めて土木構造物のストック効果の凄さや重要さについて考え、実感させられた。それと同時にインフラによるストック効果は人々の生活の豊かさを支えているものであることを実感することができた。

【参考文献】
*1. インフラストック効果(2022年10月15日閲覧)
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/stock/stockeffect.html
*2. ウィキペディア 丹那トンネル(2022年10月15日閲覧)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%B9%E9%82%A3%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB
*3. トレタビ 鉄道遺産を訪ねて―丹那トンネル、笹子トンネル、清水トンネル(2022年10月15日閲覧)
https://www.toretabi.jp/railway_info/entry-4271.html
*4. 東京新聞 新駅「新横浜」直通へ わくわく 相模鉄道と東急電鉄 来年3月相互乗り入れ(2022年10月15日閲覧)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/169607
*5. みんなでつくる鉄道コム ダイヤは?運用は? 開業前の「相鉄・東急直通線」を分析する(2022年10月15日閲覧)
https://www.tetsudo.com/report/393/


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