「事実に対するネガティブキャンペーンの威力」 大橋 直輝
1827年にジョセフ・フーリエが温室効果ガスを発表、1861年にジョン・ティンダルが主要な温室効果ガスを発見し地球の気候を変える可能性を指摘した。20世紀の初めまでは一部の知識人に浸透していたが、この科学知識が一般に広く浸透するには至っていない。20世紀の中頃になり公害・環境汚染の顕著な進行によって環境問題に対する住民の意識・事業者や行政の責任が高まり、学術面でも研究が進んだ。しかし、1940年代から1970年代にかけて地球の気温は低下傾向に入っていた。この時期は地球の気温上昇に関する議論や研究は下火になり、1960年代には、代わりに気温低下に関する研究が盛んになっていた。1980年代には、地球の気温が上昇傾向に転じ、温暖化に関する研究も進展していった。その時代の研究で温暖化の原因の大部分は人間活動が原因とされたこと・海水面の上昇や大規模な気候変化が懸念されることが指摘された。こうして1970年代ごろまで学会の定説になりつつあった地球寒冷化は温暖化へと置き換わっていった。
おそらくどちらもその時代にわかる範囲では科学的に正しかったのだろう。まだわからない、不確定なものが多い中で実験・研究を繰り返し、成果を出し続けてくださったこと、地球という強大な謎に立ち向かっていることを感謝するべきである。人間はしばらく人間が作り出した温暖化と寒冷化を繰り返すような気がする。そして、現在はひょっとしたらその狭間にあたるのかもしれない。どちらが正しいかわかるのは、もっと先の話になるであろうが。
そしてどの時代にも不利益を被らないために対抗する勢力はいた。1980年代アメリカではNASAの科学者が温暖化ガスの深刻な影響を訴え、ブッシュ大統領はCO2削減を掲げた。しかし、温暖化に懐疑的な論客が次々とメディアに登場し、批判を繰り広げる。その裏にいたのはCO2削減政策によって損失を被る石油業界によるキャンペーンがあった。気候変動に対する世論や認識を操作するために石油業界が30年間、数百万ドルを費やしていたとみられる。
98年アメリカ石油協会が裏の会合での計画書などがリークされている。「市民に気候変動の科学的根拠への疑念を持たせたい。」少しでも市民を困惑させることができたらCO2削減政策を遅らせることができる。これを実現させるために多くの精巧な工作をした。まず一つ、テレビで非常にコミュニケーションに長けたコメンテーターと科学者を対決させた。打ち負かすことを目的に持っているコメンテーターに、その道のプロに科学者は何もできない、そんな姿を市民に見せる。コメンテーターもうまく騙されていた。都合のいいデータばかりをうまく渡されていたのだ。優秀な学者に逆に正しく打ち負かされるまでコメンテーターは自分の受け取っていた資料と正しい根拠との齟齬に気付けなかった。二つ目は気候変動が単なる流行であることを証明するために着手した疑わしい研究。大学が民間企業のスポンサーを持ち、資金を援助してもらうことはとても自然なものであった。しかし、スポンサーに不利になる研究をするだろうか。名門大学にも資金を流し学問の独立を掲げながらも学問分野を歪めていた。中には正確性に欠け、石油ガス業界とのつながりも見えてしまうレベルの映画を見せられたこともあった。そして3つ目に科学者への攻撃があった。興味深いことに過去にオゾンホールの研究をしていた科学者を攻撃していた人物・組織と同一であり、対象と内容を変えただけのそっくりな文章が送られていたのだ。
しかし、エクソンモービルの科学者はいち早く温暖化の調査に出て、CO2が影響を及ぼしている、温暖化が多くの人に壊滅的な被害をもたらす恐れがあることを明らかにしていた。NASAが警告を促す前に、である。シェルの研究部門も警告を促していた。だが、どちらの企業も研究部門の意向とは異なる広告が出たり、温暖化に否定的な組織に何十年も寄付を続けたりした。
実はアメリカ内でのこのような動きには既視感があった。タバコの規制である。コメンテーターや学者に「ニコチンに依存性はない」と言わせた。この抵抗によりタバコの規制は遅れた。名門大学は医学部門でのタバコ会社からの資金援助を受けないことにした。そしてこの流れで一番肝となっているのはタバコ業界と石油業界のどちらにも関係をもち、莫大な資金を受け取ったコメンテーターや科学者が多かったことだ。もしかすると今の脱炭素化などテレビやラジオで聞かない日はないのはどっちの立場のものなのか、我々は操られているのか、自分で情報を集め自分で納得するしかない。
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