細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文⑥ (2021年度の「土木史と文明」の講義より)

2021-11-19 10:00:37 | 教育のこと

2021年度の第6回目の講義「自然災害の克服」という回のレポートから、秀逸なものを2つ、セレクトしました。

その2つ目はこちら。

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タイトル「わがままな国民」

 今までずっとコンパクトシティとスマートシティについての論文を述べてきたが、今回は具体的な話題として都市基盤整備について自分の感じるところを論文にまとめる。

 私は都市基盤学科に入って都市計画や土木を幅広く学んできて、いつも疑問に思うことがあった。それはなぜこんなに都市基盤施設整備において国民と技術者の意見はマッチしないのか、という点だ。私は土木を学ぶ上で多くの過去の事例を知り、そしてその多くが国民の反対を伴っていることを学んできた。国民の安全のために発展した土木技術なのに、都市基盤の整備では多くの場合でその市区町村の市民からの反発を伴う。また、自然災害が起きた際に国民からの土木技術者もしくは政府に対するバッシングもこれに含む。これはよく考えればとても不思議なことではないのか。百歩譲って後者の自然災害の対策不足に対する怒りは理にかなっている部分もある。だが、前者の都市基盤整備に対する反発はよく考えると不思議なものだ。そこで今回は授業で何回か先生が取り上げてくださった事柄も含め自分なりに意見を論じる。

 まず一つ目の理由として圧倒的な知識不足であること。今回の授業のはじめの学生からのキーワードで、私たち日本人は基本的に政治や国の動向に関して興味がなく受け身であると言われていた。それはなぜかというと知識が足りないからだ。選挙でもなんでも、知識が足りなければ興味を持つことは難しい。それと同様に、一般的な市民は国を作り上げる土木という分野に関して知識が足りない。故に土木に関してあまり興味がないように思える。ではなぜインフラ整備の際に多くの反発が生まれるのかというと、国民は自分の不利なことに関しては興味を持つからだ。インフラというものはストックで長期的な効果が見込まれるものであるが、もちろん全てが利点なわけではない。一時的に負の効果を負うものや、表面的に見れば利点が感じられないものももちろんある。土木の技術者や知識の豊富な者は、長期的な目線で本来の効果や将来を見据えた上で判断をする事ができるが、知識のない人間は視野が狭く今のことばかり考えてインフラの重要さに気づく事ができない。これではいくら専門家がインフラのストック効果を力説しても、反対意見を持つ国民に届くわけがない。

 そして二つ目の理由として、国民は自分の生活を豊かにするものに関しては良い印象を抱くが、マイナスに備えるものに関してはあまりいい印象を抱かないこと。詳しく説明すると、国民は自分たちの生活を豊かにするもの、例えば新しいショッピングモールの建設、駅の発展などに関しては興味関心を強く持ち良い方向へと持っていこうとするが、今の生活を豊かにするわけでもなく、ただ起こる可能性のある災害に備えるためのインフラや、自分が関わる可能性が少ない社会基盤の制度の整備に関してはあまり賛成しないという事である。もちろん誰もが生活に娯楽や豊かさを求める。これは文化的な生活をする人間として正しい。だがそれだけでは私たちは生きていくことはできないだろう。プラスのことばかり見ていたらいつか足を掬われるし、足を掬われてからじゃ遅い。私たちは現実を見なければならない。

 最後の理由は、国民側でなく技術者側の理由である。その内容はデータや既存の事実に囚われ過ぎて今の状態に対応できてない、というものである。もちろん全ての技術者がそうであるとは言わない。ただデータ的にこうだからとか、同じような事例があったからこうだとか、過去に囚われて社会の基盤を形成するのではなく、私の前々回のレポート(法と社会の溝について)でも述べたように、時代の変化に敏感な国民のニーズにインフラを整備する技術者も臨機応変に、自由に対応すべきではないかと私は思う。そして柔軟な意見交換を通じて国民と技術者との距離がぐっと近くなれば、国民も現在のような大きな反発をせずとも都市基盤の整備を行う一員として参加できるのではないか。

 このように三つの理由を国民側と技術者側の二点から論じたが、最終的に私が行き着いた答えは基本的に自己中心的で国民はわがままであるということである。だが、私はわがままなのが悪いという事が言いたいのではない。国民が自己中心的なことなんてとうの昔から知っている。だからもちろん国民が知識をつけて社会基盤整備に興味を持つことも重要だが、それでも多種多様な性格で自分達が可愛くて仕方のない国民とどのようにうまく付き合っていくのか、私たちがどう変わるのかが一番重要なのだ。国民も変わる必要があるし、技術者もまた、変わる必要があるということだ。


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