細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文(85)「ローマ人の豊かさの象徴であるテルマエ」 白岩 元彦 (2021年度の「土木史と文明」の講義より)

2021-12-24 08:34:22 | 教育のこと

「ローマ人の豊かさの象徴であるテルマエ」 白岩 元彦

 私はテルマエと呼ばれるローマの公衆浴場は質の高いインフラがそれぞれに効果を発揮しているからこそ、我々が享受できる豊かさを示す象徴的な存在だと感じた。この論文ではなぜ私がそのように考える理由について、政治的な理由とローマ水道、ハイポコーストの観点から論ずる。

 テルマエとは古代ローマ時代に庶民に親しまれてきた公衆浴場である。そのような公衆浴場が建設された背景にはテルマエには格安で質の高い公共サービスを供給し、市民の支持を集めようという政治的な意図があったと推測される。私は講義資料に掲載されていたカラカラ浴場の平面図をみて愕然とした。浴場やサウナはもちろん、運動場や図書館、絵画を展示するスペースもあり、現代の日本の銭湯には比べ物にならないほどに設備が充実していて、まるで都市の公共的文化的な機能を集約した小さな町のようである。これらの設備は格安の料金で利用でき、ローマ市民は芸術に親しんだり、運動をしたり、友人と議論を交わせるような環境を簡単に享受できた。人間が持つ欲を満たせるような施設があることで政治に対する不満を発散させるような狙いがあったのだろう。また、テルマエには地域の有力者が自らの名前を宣伝する効果もあった。裕福なローマ人はローマ市民の名声を得たいときに公衆浴場を1日だけ貸し切りにして一般に無料公開したといわれている。このようにテルマエには政治的な背景からその利用が促進されてきた背景があると考える。

 また、最盛期にはローマ市内だけでもおよそ400もの公衆浴場があったとされ、3世紀末の皇帝ディオクレティアヌスが建設させた帝国最大規模のテルマエは3000人収容できる規模であった。ローマ時代の社交場としての機能を十分に果たしてきたテルマエには大量の水が必要であったことは言うまでもない。そのような大量の水をローマに供給する役割を果たしたのは水道技術である。もし大量に水を供給できる水道技術が存在しなければ、テルマエは存在せず、ローマ市民の衛生状況やローマ帝国の政治の在り方も大きく異なっていただろう。

 その一方で、ローマに継続的に流れ込む豊富な水道水はハイポコーストと呼ばれる古代ローマ式の床下暖房を利用することで、水道水が温水に温められてテルマエに利用されていた。ハイポコーストは、紀元前95年頃にローマの建築家ゼルギウス・オラタの考案によるもので、中空の床下や壁の中に薪または炭火から発生する燃焼ガスを導いて床面や壁面を暖めることで室を暖房する。映画「テルマエ・ロマエ」で奴隷たちが窯に火を噴いていたシーンが印象的だったが、このように温められた空気を使用して温水や暖房として利用されていたようである。このような暖房方法は韓国で多くみられるオンドルにも似ている。紀元前の時代において既に現代でも使用されるような優れた暖房技術を開発し使用している点は驚くばかりである。

 以上のように、テルマエは政治的な要因とローマ水道、ハイポコーストなどの優れたインフラが複合的に作用しあった結果として生まれた高度なシステムであり、その存在はローマ市民やローマ帝国にとって不可欠な存在であったといえる。テルマエはインフラが複合的に作用しあうことによりその効果が何倍にも膨れ上がることを示し、ローマ時代の豊かさを象徴する大変良い事例である。

参考文献
1,家づくり 西方設計 ローマ時代のハイポコースト(床下・壁暖房)
(https://nisi93.exblog.jp/7085814/)2021/12/17参照
2,映画「テルマエ・ロマエ」 監督 武内英樹 2012年上映


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