駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

努力は裏切られる

2012年10月05日 | 医療

      

 社会は目に見えにくいけれども薄い層状のバウムクーヘン構造になっており、人は意外に狭い世界に生きている。広い付き合いがあると思っても実は横の繋がりで、層を越えた付き合いは少ないのではないか。あったとしても仕事や事務的なことに限られている場合が多いだろう。

 前線の臨床医は例外的にあらゆる層と関わりを持つというか持たざるを得ない。開業医の場合は地域の特性があるから、救急外来ほど多彩では無いが、常識不足の人達との出会いは多い。

 脳梗塞で寝たきりのTさん(75才)宅から「熱を出した、往診して頂戴」。と奥さんから依頼があり、定期往診の追加でM町まで足を延ばす。Tさんは赤い顔をして努力性の頻回呼吸をしている。、聴診器を当てなくてもゼイゼイという肺雑音が聞こえる。酸素の飽和度が85%しかない。経管栄養といっても僅かな逆流があるので、肺炎を起こしやすい。心不全も合併していそうだ。これは入院しないといけませんね、S病院でよろしいですか。はいはい、お願いしますと言うので、医院に帰って病院と連絡を取ってみます。OKが出たら、直ぐ救急車で行って下さい、と告げて帰る。

 電話して依頼状をFaxしてくれた事務のNさん、

 「先生、S病院受けてくれます。直ぐ来て下さいと返事がありました」。

 「じゃあ、Tさんに電話して直ぐ行って貰って」。

 暫くして「何回電話しても出ません」。

 「あれ、おかしいなあ、ケアマネージャーに連絡してみて」。

 病院からまだかと電話が来てNさん申し訳ありませんと謝りながら困り果てる。三十分ほどして電話が繋がる。

 「あら、私髪を洗っていたのよ。もうちょっと待って、直ぐにはいけないわ」。なによそれ、とNさん眼を三角にして怒っている。

 入院というのはいつでもはいはいと受けて貰えるわけでは無いのだ。病院だってどうぞと返事をしてから一時間以上待たされ五時過ぎに来られては、ちっとも嬉しくないのだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする