2023年8月20日付け中日新聞で、「ビジネスと人権」と題して特集を報道していました。筆者はトヨタ自動車で45年勤務してきた生き証人として興味深い記事でした。ご指摘の通り「人権重視を表明するが実行が伴わない」これが日本企業の実態です。なぜなら企業に労働者は従属させられているからだと思います。企業内労働組合は労働者保護の立場がなく、むしろ経営者の番犬としておかれているだけです。
ここに悲劇があると考えます。トヨタ社員の労災認定裁判を戦った原告の話で印象に残ったのは、組合員であった「被災者」の職場の悩み・苦しみを労働組合に相談したらと「妻」が諭すと、「だめだそんなことをしたら首になる」といったそうです。組合に脅威を抱いていたのです。組合の実態は企業の反映でもあります。豊田章夫会長は意見の違うものは排除し敵対関係とみなす思想ですから、もともと人権などは狭い範囲でしか見ていないのでしょう。
フイリピントヨタ社における237名の解雇問題は、23年たった今でもトヨタは放置状態で戦っている労働者は疲労困憊・生活困窮状態に置かれとり、これはまさしく「人権問題」です。今年も9月17・18日にかけて愛知行動を展開して、名古屋駅周辺と豊田市本社で要請行動を展開し市民にアピールしました。6月の株主総会でも抗議行動を展開しています。
トヨタは人権を守れ! 争議を解決せよ!
以下は「要請書」です。
2023 年 9 月 18 日
471‐8571
愛知県豊田市トヨタ町1番地
トヨタ自動車株式会社
代表取締役会長 豊 田 章 男 殿
代表取締役社長 佐 藤 恒 治 殿
フィリピントヨタ自動車労働組合
( Toyota Motor Philippines Corporation
Workers Association (TMPCWA))
執行委員長 エ ド ・ ク ベ ロ
フィリピントヨタ労組を支援する会
代 表 山 際 正 道
フィリピントヨタ労組を支援する愛知の会
共同代表 若 月 忠 夫
共同代表 田 中 九思雄
フィリピントヨタにおける長期労働争議の解決に関する抗議および要請
拝啓
貴社が 2001 年に TMPCWA に対して犯した組合潰しのための大量不当解雇に関し、私
たちが必死の思いで貴社に繰り返し反省と解決を求めていることは、豊田会長ならび
に佐藤社長におかれましても既に十分ご承知のことと信じて疑いません。
この間、貴社は代表取締役社長豊田章男氏の直筆署名入りの大層ご立派な「トヨタ
自動車人権方針」(2021 年 9 月 29 日付け)なるものを内外に向かって公表されまし
た。
そこで豊田会長ならびに佐藤社長にズバリ単刀直入にお尋ねします。
貴社愛知本社は本日開催予定の私たちの代表団との面談において、相も変わらず本
申入書の受け取りを拒絶されると思われますが、そのような社会的常識も欠いた、貴
社による人権侵害の被害者でありかつ解決を求めている当事者からの申入書の提出
に対する受け取り拒否という全く失礼千万な行為は、一体全体上記のトヨタ自動車人
権方針とどう結びつくのですか、教えて下さい。そして貴社は今後もさらにそのよう
な非常識な、明々白々に貴社自身の公表している人権方針に違反する愚行・悪行を厚
顔無恥にも繰り返していくつもりですか、貴社最高経営責任者として明確に示して頂
きたい。
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次に、上記のトヨタ自動車人権方針には、「当該国の法規制と国際的な人権規範が
異なる場合は、より高い基準に従い、相反する場合には、国際的に認められた人権を
最大限尊重する方法を追求します」との、看過することのできない声明が公言されて
います。(太字および下線の強調は私たちが付したもの)
そこで豊田会長ならびに佐藤社長にお尋ねします。このように公言されていること
は、貴社がフィリピントヨタ大量解雇に関しフィリピン最高裁という当該国の法機関
が解雇を適法と認めたのだから本件は終了したとして、解雇は組合潰しのためになさ
れたものであるから無効としてその交渉を通じての衡平な解決を求めている国際労
働機関(ILO)の勧告を無視抹殺している現実と、一体全体どう結びつくのですか、教
えて下さい。この ILO 勧告に従うことこそが、貴社の公言する「国連ビジネスと人権
に関する指導原則を支持し、これに基づき人権尊重の取組みを進めて参ります」(同
人権方針の出だしの文)という声明の具体的実践行動なのではありませんか、貴社の
言っていることとやっていることは全然合っていないのではありませんか、どう弁明
されますか。これからそれを過去に遡って是正していくというのであればその旨明示
して下さい。「本方針は、トヨタ自動車株式会社の取締役会において、2021 年 9 月 29
日に承認されています」(同人権方針の結びの文)と明記されており既にそれから丸々
2 年も経っているのに、なんら ILO 勧告に従う旨の改善行動がみられないというのは、
一体全体どういうことなのでしょうか。私たちだけでなく世間が、国内国際社会が納
得できる説明と行動実践を求めます。
そして貴社は自分が決めて公表公言しているトヨタ人権方針に沿って行動するど
ころか、ますますそれに反する行動を取っているのではありませんか。即ち、本年の
去る 8 月 23 日に豊田章男会長は余人には任せられないと言わんばかりに、日本のト
ヨタ本社を代表して設立記念式典の開かれるフィリピントヨタ社に赴き、その式典に
はマルコス二世大統領夫人を招き、それと並行して同大統領を工場視察に招くという
手の込んだイベントを演出したのでした。
その一連の行事を通じて豊田会長は、トヨタ自動車人権方針に基づいて ILO 勧告に
従い本件労働争議を解決しようという努力を全く行うことなく、反対にフィリピント
ヨタ社アルフレッド・ティ会長に向かって、「この会社は僕の父親(豊田章一郎氏)が
君の父親(ジョージ・ティ氏)と協力して創ったんだよね、だからこの会社を守って
いこう」と言わんばかりに、まるで両家の天領とでも言わんばかりに自画自賛、マル
コス二世大統領に「トヨタは ILO 勧告に従って争議を解決するように」と言わせない
ようにする魂胆が見え見えの振る舞いを展開したのでした。
しかしながら、そうした国の為政者を抱き込んで自らの悪事・悪行を是正すること
なく糊塗して押し通してしまおうとするような企みは全くの悪あがきに終始するで
あろうことが、今や全く明白です。なぜならば、一方では、トヨタ自身が麗々しくト
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ヨタ自動車人権方針を公表したにもかかわらず、それに違反する行動を取り続けてい
るためにその自己矛盾がこのままではとても収拾できないほど膨れ上がってトヨタ
の経営陣を苦しめているからであり、他方ではフィリピンのマルコス二世大統領が今
年の 4 月 30 日に、即ち翌日のメーデーに向けてのフィリピン労働者向けプレゼント
であるとして、一説には 68 人にも達すると言われる軍・警察による組合指導者・活
動家殺しに象徴されるドゥテルテ前大統領時代までの圧政に労働者の止むにやまれ
ぬ叫びに応えて ILO がフィリピン政府に発した厳しい是正措置要請に対して、国の方
針として ILO の結社の自由と団結権、団体交渉権の両条約に従っていくこと、そして
これまでの弾圧の行為者の処罰、被害者の救済を行う旨を大統領の特別行政命令(エ
グゼキュティブ・オーダー)23 号として発表したからです。これは即ち、大統領が自
ら進んで過去の ILO 条約違反事件の是正を含めた ILO 条約の実施に関して ILO の監視
を受けることを宣言したものであり、トヨタの問題を目こぼしすることなど最早全く
不可能になったのです。豊田章男会長ならびに佐藤社長はこのような現実を潔く直視
すべきです。
取締役の行為は連帯責任であり、また豊田章男会長があれは自分が社長時代に発表
したものであって会長となった現在はその拘束を受けないなどとでも言ったならば
とんだお笑い者になるでしょう。なにしろ代表取締役なのですから。取締役会で決議
したと明文で発表したものを無きものにするにはその旨の取締役会決議をしてその
ことを明文で明らかにしなければなりません。佐藤社長は 2021 年の取締役会決議に
取締役として加わっていたか否かにかかわらず、それが存在する限りそれに拘束され
ることは明らかです。代表取締役であるからなおさらです。豊田会長の言行不一致の
振る舞いを見て見ないふりをすることも許されません。代表取締役には、この人権方
針のように“これこれ、こうする”と言明したことを実行する法的責任が発生します。
それを実行せず、あるいはそれに反する言行を行ったならば不実表示とか虚偽表示と
いった法的責任も生じます。
それでは事態はもうにっちもさっちも行かないほど暗礁に乗り上げてしまったので
しょうか。いえいえそうではありません。そのように事態を難しくしてしまっている
原因はトヨタ最高経営幹部の誤った心構えにあるのです。たった今からでも直ちに本
件労働争議を円満解決するという決断をされるならば、事態は大いに前向きに展開し
ていく筈です。
豊田会長ならびに佐藤社長の決然たる翻意を促します。
敬具
添付資料:トヨタ自動車人権方針(コピー)