紙魚子の小部屋 パート1

節操のない読書、テレビやラジオの感想、お買い物のあれこれ、家族漫才を、ほぼ毎日書いています。

ミステリー「孤島の鬼」

2006-07-20 22:14:09 | 読書
 子どもの頃には江戸川乱歩の少年探偵団シリーズが、ずらりと本箱に並んでいたが、いっとう好きだったのは『黒い魔女』(『黒蜥蜴』のお子様版)だった。中・高校生になると文庫本が増殖していった。江戸川乱歩の文庫は、中島梓だったか栗本薫だったかがおすすめしていた『孤島の鬼』だけを持っていた。さすが「いま、危険な愛に目覚めて」というキャッチフレーズの『June』の人らしい選択だと思う。

 まだ萩尾望都も昼{恵子もデビュ≠オていない時に、これが少女漫画化されていたのを読んだような記憶がある。中学生くらいだったかなあ? 高校に入ったばかりだったかも? 時代的にちょっとばかし早すぎる危険な愛の世界だったのが惜しまれる。めちゃめちゃ面白かったのに。江戸川乱歩と少女漫画・・・意外にマッチしたのだ。

 女子高校といえば入学前に不安が先立ち、大奥みたいな陰惨な人間関係を想像していたがそんなことはなく、あけっぴろげで多様な個性が溢れ、いたってみんな仲が良かった。(むしろ共学の中学生の頃の方が、げんなりするくらい「女の陰湿さ」を目の当たりにした)

 各自気の合う趣味の似ている女の子同士が付き合うから小さなグループ化はあるけれど、派閥争いや陰湿な嫌がらせはなかった(少なくとも私の知る範囲では)。だから特定の仲の良いグループ以外の女の子とも、和気あいあいだったりもした。

 高校生の中盤にさしかかった頃、ちょっとすさんだ目つきをした女の子が奄美大島から京都の高校に転校してきた。「かをり」と呼ばれるようになった彼女は、即座にスカートが長くパーマをかけ、お化粧するグループに仲間入りした。

 もっとも校内の「不良」といわれていた女の子たちも、ちょっとばかし世を拗ねている程度で、下校途中で私服に着替えて町に繰り出す「ちょいワル少女」程度だった。私達は遠巻きにすることもなく、気軽に音楽の話や雑談をすることもよくあった。私と彼女も席が近かったので、頻繁に談笑した。

 そんなある日、私が中島梓おすすめの『孤島の鬼』の何度目かを夢中で読んでいたとき、彼女がなにげなく、その本に興味を示した。私は『孤島の鬼』について彼女に熱く語り、さっそく彼女に貸してあげることになった。

 数日後、彼女がその本を開き、ラスト近くを涙を流しながら読んでいた光景は、あれから30年たっても鮮明な記憶として残っている。

 彼女はその後も、やはり同じグループに所属していたが、顔つきがずいぶんもの柔らかになっていた。卒業した5年後くらいの同窓会では、趣味の良いドレスを身にまとい、別人のように穏やかな麗人に変貌していた。思わず見とれてしまったくらい、ほんとに。

 ほどなく『孤島の鬼』を返してもらったとき、彼女がこんな話をした。

「うちのお母さんがねえ、私が紙魚子さんと付き合うようになって変わったって喜んでる。奄美大島にいたときは、男の子のオートバイの後ろに乗って走り回ってむちゃくちゃしてたのに、こっちに引っ越してからは、本読むようになったって。ほんとにお母さんが、よろこんでる」

 へええ~、そうなん? 
くらいの返事しかできなかったけど。私は何にもしてないんだけどなー。たぶん彼女自身が何かをみつけたのだろう。X線のように、私を突き抜けた向こう側にある何かを。このことについて、私には、今も昔も何もわからない。

 ただ『孤島の鬼』を彼女に貸してあげただけ。しかもこれは人生を左右する本でも、深い感銘を残す本でもないように思う。ラストは考えさせられたりして、悲しい結末で、たしかにもの凄く面白くはあるんだけどね。

 高校時代のミステリーな話です。