将棋の棋士たちが、急速に力をつけてトップ棋士までも脅かすほど強くなった将棋ソフトにどう向き合っていくかを、十一人の棋士にインタビューしたものをまとめた本です。
現在の最強の将棋ソフトは、トップ棋士と同等以上の強さを持っていると言われています。
コンピュータソフトとゲームの最強プレーヤーの対決は古く1990年代から行われています。
比較的簡単なチェッカーは、コンピュータがあっさりと最強棋士を負かしてしまい、さらには完全解(その通りの手順にさせば必ず引き分けになってしまう)まで証明されて、ゲームとしての生命を絶たれてしまいました。
チェスも1990年代に、当時の世界チャンピオンがIBMのスーパーコンピュータのビッグブルーに破れてしまいました。
しかし、置き駒のできる将棋はチェスより格段に難しいので、将棋ソフトに負ける日はかなり先のことと思われてきました。
当時のコンピューターはその計算能力を生かしてしらみつぶしに先読みをさせる戦法だったので、コンピュータハードウェアの進歩(計算速度が速くなる)から、将来を類推していたのです。
ところが、その後AI(人工知能)の研究が進み、コンピュータが学習能力を身につけると、自分自身で対戦を重ねることで最善手の発見が飛躍的に速くなり、将棋ソフトの実力は急速に進化し、2015年にはトップ棋士の実力に追いつきました。
実際に、将棋ソフトの対戦でトップ棋士も負けるようになり、将棋界には深刻な危機感(ファンやスポンサーが離れてしまうのではないか)が生まれています。
また、将棋よりさらに複雑な囲碁でも、2016年に、韓国のトップ棋士がコンピュータに敗れ、大きなニュースになりました。
そんな状況の中で、この本が出版されました。
私がこの本に興味を持ったのは、将棋界に限らず、AIの普及により多くの職業が失われてしまうのではないかとの危惧がある中で、人間が生き残っていくためのヒントが得られるのではないかと思ったからです。
人間がコンピューターに仕事を奪われるのは、今に始まったことではありません。
私が就職したのは、四十年前のことでした。
最初の仕事は、外資系の電子機器メーカーのマーケティング課のサービス係でした。
職場には、係長の下に、私と先輩の男性エンジニアがいました。
仕事の内容は、新製品の使い方や動作原理や修理方法を書いた英文マニュアルと使い方の部分だけを翻訳した和文の取扱説明書の作成と、世界中にいる実際に修理をするサービスエンジニアたちのトレーニングと彼らが困ったときの技術サポートでした。
これらを行う私たち二人をサポートするために、セクレタリ(秘書)、英文タイピスト、和文タイピスト、トレーサー(私たちが手書きした図面をトレースする人)の四人の女性と、英文をチェックしてくれるアメリカ人の男性がいました。
しかし、OA(オフィスオートメーション)によって、2000年ごろまでに、彼ら五人の仕事は完全になくなってしまいました。
出張の手配、費用の精算、必要品の手配、英文作成、和文作成、翻訳、図の作成、海外のエンジニアとのネットミーティングなど、すべてをコンピュータを使ってエンジニア自身が行えます。
こうした人間の仕事がなくなっていく状況は、AIの進歩によりさらに加速すると言われています。
そんな中で、この本に人間が生き残っていくためのヒントを探しました。
本の目次に、各回のまとめがのっているので、それを見ていただけば、各棋士のコンピューターソフトへのスタンスがわかるので、転載しました。
各棋士の肩書は、タイトル戦などの結果で日々に変わっていきますので、興味のある方はネットで調べてください。
第1章 現役最強棋士の自負と憂鬱
羽生善治 何の将棋ソフトを使っているかは言いません
渡辺 明 コンピュータと指すためにプロになったのではない
第2章 先駆者としての棋士の視点
勝又清和 羽生さんがいきなり負けるのは見たくない
西尾 明 チェス界の現状から読み解く将棋の近未来
千田翔太 試行錯誤の末に見出した「棋力向上」の道
第3章 コンピュータに敗れた棋士の告白
山崎隆之 勝負の平等性が薄れた将棋界に感じる寂しさ
村山慈明 効率を優先させた先にあるものへの不安
第4章 人工知能との対決を恐れない棋士
森内俊之 得られるものと失うものの狭間で
糸谷哲郎 ソフトの「ハチャメチャ」な序盤にどう慣れるか
第五章 将棋ソフトに背を向ける棋士
佐藤康光 将棋はそれほど簡単ではない
行方尚史 自分が描いている理想の棋士像とのズレ
それぞれの将棋ソフトに対するスタンスは様々ですが、共通しているのは以下の通りです。
・棋譜(対戦の記録)への将棋ソフトの影響は避けられないだろう。
・現行の棋士制度(棋士になるは難しいがいったんなればある程度の収入は保障されている)を維持するのは難しいだろう。
・観客(これはコンピュータの進歩のいい影響で、インターネットにより観客は飛躍的に増えています)を感動させられるような人間同士の対戦はファンを引き付け続けていけるだろう。
結論を言うと、クリエイティビティを持ったトップ棋士の棋譜(芸術性があると言っていいかもしれません)は、コンピュータには生み出せない価値を持つと信じられています。
これは、他の職業でも同様でしょう。
ルーチンワークや推測で行えるような仕事はなくなり、コンピュータに行えないようなクリエイティブな仕事は今よりも価値を持つことでしょう。
児童文学の世界でも同様で、読者のデーターベース消費を満足させるようなパターン化したキャラクター小説は、やがてはコンピュータで自動生成されるようになり、今は軽視されている芸術的な作品が価値を持つ時代がやがて来ることでしょう。
現在の最強の将棋ソフトは、トップ棋士と同等以上の強さを持っていると言われています。
コンピュータソフトとゲームの最強プレーヤーの対決は古く1990年代から行われています。
比較的簡単なチェッカーは、コンピュータがあっさりと最強棋士を負かしてしまい、さらには完全解(その通りの手順にさせば必ず引き分けになってしまう)まで証明されて、ゲームとしての生命を絶たれてしまいました。
チェスも1990年代に、当時の世界チャンピオンがIBMのスーパーコンピュータのビッグブルーに破れてしまいました。
しかし、置き駒のできる将棋はチェスより格段に難しいので、将棋ソフトに負ける日はかなり先のことと思われてきました。
当時のコンピューターはその計算能力を生かしてしらみつぶしに先読みをさせる戦法だったので、コンピュータハードウェアの進歩(計算速度が速くなる)から、将来を類推していたのです。
ところが、その後AI(人工知能)の研究が進み、コンピュータが学習能力を身につけると、自分自身で対戦を重ねることで最善手の発見が飛躍的に速くなり、将棋ソフトの実力は急速に進化し、2015年にはトップ棋士の実力に追いつきました。
実際に、将棋ソフトの対戦でトップ棋士も負けるようになり、将棋界には深刻な危機感(ファンやスポンサーが離れてしまうのではないか)が生まれています。
また、将棋よりさらに複雑な囲碁でも、2016年に、韓国のトップ棋士がコンピュータに敗れ、大きなニュースになりました。
そんな状況の中で、この本が出版されました。
私がこの本に興味を持ったのは、将棋界に限らず、AIの普及により多くの職業が失われてしまうのではないかとの危惧がある中で、人間が生き残っていくためのヒントが得られるのではないかと思ったからです。
人間がコンピューターに仕事を奪われるのは、今に始まったことではありません。
私が就職したのは、四十年前のことでした。
最初の仕事は、外資系の電子機器メーカーのマーケティング課のサービス係でした。
職場には、係長の下に、私と先輩の男性エンジニアがいました。
仕事の内容は、新製品の使い方や動作原理や修理方法を書いた英文マニュアルと使い方の部分だけを翻訳した和文の取扱説明書の作成と、世界中にいる実際に修理をするサービスエンジニアたちのトレーニングと彼らが困ったときの技術サポートでした。
これらを行う私たち二人をサポートするために、セクレタリ(秘書)、英文タイピスト、和文タイピスト、トレーサー(私たちが手書きした図面をトレースする人)の四人の女性と、英文をチェックしてくれるアメリカ人の男性がいました。
しかし、OA(オフィスオートメーション)によって、2000年ごろまでに、彼ら五人の仕事は完全になくなってしまいました。
出張の手配、費用の精算、必要品の手配、英文作成、和文作成、翻訳、図の作成、海外のエンジニアとのネットミーティングなど、すべてをコンピュータを使ってエンジニア自身が行えます。
こうした人間の仕事がなくなっていく状況は、AIの進歩によりさらに加速すると言われています。
そんな中で、この本に人間が生き残っていくためのヒントを探しました。
本の目次に、各回のまとめがのっているので、それを見ていただけば、各棋士のコンピューターソフトへのスタンスがわかるので、転載しました。
各棋士の肩書は、タイトル戦などの結果で日々に変わっていきますので、興味のある方はネットで調べてください。
第1章 現役最強棋士の自負と憂鬱
羽生善治 何の将棋ソフトを使っているかは言いません
渡辺 明 コンピュータと指すためにプロになったのではない
第2章 先駆者としての棋士の視点
勝又清和 羽生さんがいきなり負けるのは見たくない
西尾 明 チェス界の現状から読み解く将棋の近未来
千田翔太 試行錯誤の末に見出した「棋力向上」の道
第3章 コンピュータに敗れた棋士の告白
山崎隆之 勝負の平等性が薄れた将棋界に感じる寂しさ
村山慈明 効率を優先させた先にあるものへの不安
第4章 人工知能との対決を恐れない棋士
森内俊之 得られるものと失うものの狭間で
糸谷哲郎 ソフトの「ハチャメチャ」な序盤にどう慣れるか
第五章 将棋ソフトに背を向ける棋士
佐藤康光 将棋はそれほど簡単ではない
行方尚史 自分が描いている理想の棋士像とのズレ
それぞれの将棋ソフトに対するスタンスは様々ですが、共通しているのは以下の通りです。
・棋譜(対戦の記録)への将棋ソフトの影響は避けられないだろう。
・現行の棋士制度(棋士になるは難しいがいったんなればある程度の収入は保障されている)を維持するのは難しいだろう。
・観客(これはコンピュータの進歩のいい影響で、インターネットにより観客は飛躍的に増えています)を感動させられるような人間同士の対戦はファンを引き付け続けていけるだろう。
結論を言うと、クリエイティビティを持ったトップ棋士の棋譜(芸術性があると言っていいかもしれません)は、コンピュータには生み出せない価値を持つと信じられています。
これは、他の職業でも同様でしょう。
ルーチンワークや推測で行えるような仕事はなくなり、コンピュータに行えないようなクリエイティブな仕事は今よりも価値を持つことでしょう。
児童文学の世界でも同様で、読者のデーターベース消費を満足させるようなパターン化したキャラクター小説は、やがてはコンピュータで自動生成されるようになり、今は軽視されている芸術的な作品が価値を持つ時代がやがて来ることでしょう。
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