現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

大川慎太郎「不屈の棋士」

2016-11-13 11:27:31 | 参考文献
 将棋の棋士たちが、急速に力をつけてトップ棋士までも脅かすほど強くなった将棋ソフトにどう向き合っていくかを、十一人の棋士にインタビューしたものをまとめた本です。
 現在の最強の将棋ソフトは、トップ棋士と同等以上の強さを持っていると言われています。
 コンピュータソフトとゲームの最強プレーヤーの対決は古く1990年代から行われています。
 比較的簡単なチェッカーは、コンピュータがあっさりと最強棋士を負かしてしまい、さらには完全解(その通りの手順にさせば必ず引き分けになってしまう)まで証明されて、ゲームとしての生命を絶たれてしまいました。
 チェスも1990年代に、当時の世界チャンピオンがIBMのスーパーコンピュータのビッグブルーに破れてしまいました。
 しかし、置き駒のできる将棋はチェスより格段に難しいので、将棋ソフトに負ける日はかなり先のことと思われてきました。
 当時のコンピューターはその計算能力を生かしてしらみつぶしに先読みをさせる戦法だったので、コンピュータハードウェアの進歩(計算速度が速くなる)から、将来を類推していたのです。
 ところが、その後AI(人工知能)の研究が進み、コンピュータが学習能力を身につけると、自分自身で対戦を重ねることで最善手の発見が飛躍的に速くなり、将棋ソフトの実力は急速に進化し、2015年にはトップ棋士の実力に追いつきました。
 実際に、将棋ソフトの対戦でトップ棋士も負けるようになり、将棋界には深刻な危機感(ファンやスポンサーが離れてしまうのではないか)が生まれています。
 また、将棋よりさらに複雑な囲碁でも、2016年に、韓国のトップ棋士がコンピュータに敗れ、大きなニュースになりました。
 そんな状況の中で、この本が出版されました。
 私がこの本に興味を持ったのは、将棋界に限らず、AIの普及により多くの職業が失われてしまうのではないかとの危惧がある中で、人間が生き残っていくためのヒントが得られるのではないかと思ったからです。
 人間がコンピューターに仕事を奪われるのは、今に始まったことではありません。
 私が就職したのは、四十年前のことでした。
 最初の仕事は、外資系の電子機器メーカーのマーケティング課のサービス係でした。
 職場には、係長の下に、私と先輩の男性エンジニアがいました。
 仕事の内容は、新製品の使い方や動作原理や修理方法を書いた英文マニュアルと使い方の部分だけを翻訳した和文の取扱説明書の作成と、世界中にいる実際に修理をするサービスエンジニアたちのトレーニングと彼らが困ったときの技術サポートでした。
 これらを行う私たち二人をサポートするために、セクレタリ(秘書)、英文タイピスト、和文タイピスト、トレーサー(私たちが手書きした図面をトレースする人)の四人の女性と、英文をチェックしてくれるアメリカ人の男性がいました。
 しかし、OA(オフィスオートメーション)によって、2000年ごろまでに、彼ら五人の仕事は完全になくなってしまいました。
 出張の手配、費用の精算、必要品の手配、英文作成、和文作成、翻訳、図の作成、海外のエンジニアとのネットミーティングなど、すべてをコンピュータを使ってエンジニア自身が行えます。
 こうした人間の仕事がなくなっていく状況は、AIの進歩によりさらに加速すると言われています。
 そんな中で、この本に人間が生き残っていくためのヒントを探しました。
 本の目次に、各回のまとめがのっているので、それを見ていただけば、各棋士のコンピューターソフトへのスタンスがわかるので、転載しました。
 各棋士の肩書は、タイトル戦などの結果で日々に変わっていきますので、興味のある方はネットで調べてください。

 第1章 現役最強棋士の自負と憂鬱
  羽生善治 何の将棋ソフトを使っているかは言いません
  渡辺 明 コンピュータと指すためにプロになったのではない

 第2章 先駆者としての棋士の視点 
  勝又清和 羽生さんがいきなり負けるのは見たくない
  西尾 明 チェス界の現状から読み解く将棋の近未来
  千田翔太 試行錯誤の末に見出した「棋力向上」の道

 第3章 コンピュータに敗れた棋士の告白
  山崎隆之 勝負の平等性が薄れた将棋界に感じる寂しさ
  村山慈明 効率を優先させた先にあるものへの不安

 第4章 人工知能との対決を恐れない棋士
  森内俊之 得られるものと失うものの狭間で
  糸谷哲郎 ソフトの「ハチャメチャ」な序盤にどう慣れるか

 第五章 将棋ソフトに背を向ける棋士
  佐藤康光 将棋はそれほど簡単ではない
  行方尚史 自分が描いている理想の棋士像とのズレ

 それぞれの将棋ソフトに対するスタンスは様々ですが、共通しているのは以下の通りです。
 ・棋譜(対戦の記録)への将棋ソフトの影響は避けられないだろう。
 ・現行の棋士制度(棋士になるは難しいがいったんなればある程度の収入は保障されている)を維持するのは難しいだろう。
 ・観客(これはコンピュータの進歩のいい影響で、インターネットにより観客は飛躍的に増えています)を感動させられるような人間同士の対戦はファンを引き付け続けていけるだろう。
 結論を言うと、クリエイティビティを持ったトップ棋士の棋譜(芸術性があると言っていいかもしれません)は、コンピュータには生み出せない価値を持つと信じられています。
 これは、他の職業でも同様でしょう。
 ルーチンワークや推測で行えるような仕事はなくなり、コンピュータに行えないようなクリエイティブな仕事は今よりも価値を持つことでしょう。
 児童文学の世界でも同様で、読者のデーターベース消費を満足させるようなパターン化したキャラクター小説は、やがてはコンピュータで自動生成されるようになり、今は軽視されている芸術的な作品が価値を持つ時代がやがて来ることでしょう。

不屈の棋士 (講談社現代新書)
クリエーター情報なし
講談社





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バッティングセンター

2016-11-13 09:07:12 | キンドル本
 主人公の兄弟は、少年野球チームに入っています。
 最近、兄の方はバッティングが不調で悩んでいます。
 一方、弟の方は、低学年だけのチームで主力バッターです。
 バッティングの練習のためには、バッティングセンターが有効です。
 しかし、たいがいは右利き用の打席しかなく、左バッターは利用できません。
 兄弟の父親は、左利きの兄のために、左打席のあるバッティングセンターを探しています。
 新しいバッティングセンターがオープンしました。
 さっそく父親は、兄弟をバッティングセンターに連れて行きました。
 そこには最新の設備がそろっていて、左バッター用の打席もありました。
 二人は、熱心にバッティング練習をしました
 そのころ、兄弟の祖父は脳梗塞で入院していました。
 その病院は、新しいバッティングセンターの近くでした。
 兄弟は、バッティング練習の後で、ユニフォーム姿のまま祖父を励ましに行きました。
 兄が出場する県大会出場のかかった大事な試合がやってきました。
 その当日、祖父は危篤になります。
 そのため、父親は試合の応援に行かれませんでした。
 はたして試合の結末は?

 (下のバナーをクリックすると、スマホやタブレット端末やパソコンやKindle Unlimitedで読めます)。


バッティングセンター
クリエーター情報なし
平野 厚
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児童文学における主人公のキャラクター設定について

2016-11-13 08:52:59 | 考察
 児童文学の主人公は、完全無欠な優等生タイプよりも、どこかに欠点や弱点を持っている方が好まれるようです。
 大半の読者は、普通の男の子だったり女の子だったりするので(現在は圧倒的に女の子の方が多いでしょう。男の子たちは、物語の消費欲求を、携帯ゲームやトレーディングカードで満足させています。もちろんアニメやコミックスは、男女を問わずに今でも好まれています。ただ、最近はやっているスマホは、男の子より女の子の方が普及率が高いので、彼女たちもだんだん紙の本は読まなくなっていくでしょう)、優等生の自慢話などは反感を買うだけで、自分たちよりも劣った点を持った主人公の方が共感が持てます。
 四半世紀前に、長崎夏海が非行少女や少年たちを描いて注目されていたころ、「不良を描けば児童文学になるのかよ」と彼女にかみついたことがありましたが、今振り返ってみると、あのころはああいった少年少女を描くことに意味があったのだと思っています。
 その一方で、エンターテインメントの世界では、スポーツや芸術分野で超人的な能力を持った主人公は、読者のあこがれの対象になるようです。
 また、イケメンや美少女などの外見的要素も大事になっています。
 現在、一番主人公にしにくいキャラクターは、可もなく不可もない普通の男の子でしょう(先ほど述べましたように、読者のマジョリティは普通の女の子たちなので、彼女たちに似た普通の女の子の主人公は、まだ共感を得ることができます)。
 1980年代までは、森忠明や皿海達哉たちが、普通の男の子たちを主人公にした本を書いていましたが、現在ではそのような本を出版することは非常に困難です。

table border=0 colspacing=0 cellpadding=0>子供の本の世界―物語の主人公たち (1972年) (ほるぷ・ブックガイド・シリーズ)クリエーター情報なし図書月販
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