現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

児童文学は誰でも一冊は本を出せる

2016-11-04 10:40:08 | 考察
 児童文学で一冊の本を出すことは、そんなに難しくありません。
 もちろん、自費出版や協力出版といった作者の経済的負担が必要な本ではなく、アンソロジーに短編を入れてもらう場合でもありません。
 きちんと印税がもらえる商業出版で本を出す場合です。
 児童文学の世界では、児童文学の執筆だけで生活しているプロの作家は少なく、他にも職業を持っているセミプロの作家やいわゆる主婦作家(配偶者が働いている場合の男性作家も含めて)が大半です。
 そのため、文学的あるいは商品的に言えば、それほどハードルは高くありません。
 そういった状況において、新人が登場するチャンスはたくさんあるのです。
 特に、女性の場合は、児童文学の読者は女の子が圧倒的に多いので、自分の体験を生かせてかなり有利です。
 もちろん、文章、描写、構成、物語作りなどの基本的なことは訓練しなければなりません。
 普段から文章を書きなれている人ならば、すぐに作品を書き始めても大丈夫です。
 自信がない場合は、日本児童文学者協会や日本児童文芸家協会などの各種教室に参加して、基本的なことを学びましょう。
 そして、そこでつてを得て、どこかの同人誌に入れてもらえばいいと思います。
 児童文学の世界では、今でも各地で同人誌活動をしている人たちがいます(私もそうですが)。
 同人誌を選ぶポイントとしては、自分が書きたい分野ですでに商業出版している同人がいる同人誌を選ぶことです。
 エンターテインメントが書きたいのならエンターテインメントの作家、リアリズムが書きたいのならリアリズムの作家、ファンタジーが書きたいならファンタジーの作家、メルフェンが書きたいのならメルフェンの作家がいる同人誌の方が得るところが多いです。
 そうやって活動しているうえで一番大事なのは、作品を提出して合評してもらうことを経験して、自分の強みが何なのかを知ることです。
 文章のうまさ、描写力、構成のうまさ、お話づくりのうまさなど、なんでもいいのです。
 また、作品のテーマや題材での差別化でもOKです。
 スポーツ、音楽、絵画、趣味、恋愛、病気、子育て、海外生活、会社、学校、社会問題など、何かしら他の人より詳しいことがひとつぐらいはあるはずです。
 その分野を、他の人には書けないぐらいに掘り下げれば、五年以内に必ず一冊は本になります。
 一方で、プロとして児童文学の執筆一本で生活していくのは、前述したように非常に困難ですので、お勧めできません。


日本児童文学 2016年 12 月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
小峰書店





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トライアングル

2016-11-04 09:33:06 | キンドル本
 主人公は、中学受験に失敗して、公立中学に通うようになりました。
 猛勉強の反動か、一学期が終わっても、まだやる気が起きません。
 でも、中学受験勉強の時の蓄積のおかげで、成績はすごくいいです。
 唯一の例外が、中学から正式に始まった英語です。
 これだけは、きちんと勉強しないと通用しません。
 そのため、夏休みの図書館に、英語の勉強をしに出かけます。
 そこで、同じクラスで英語の天才と言われている少年と会います。
 彼は無口で人とのコミュニケーションは苦手ですが、語学の才能にはすごく恵まれています。
 英語のディクテーション(聞き取り)のテストでは、完ぺきすぎるほどの成績を取っていたのです。
 主人公は、英語の勉強をする代わりに、偶然見つけた英語で書かれたボードゲームの本を翻訳する事を思いつきます。
 自分一人ではまるで歯が立たないので、語学の天才少年に助けてもらっています。
 ある日、図書館へ行く途中で、主人公はプールへ行く途中の幼馴染と再会します。
 彼は、野球部で一年なのにレギュラーになっていますが、勉強は苦手です。
 ひょんなことから、ゲーム本の翻訳のために、三人のチームが結成されることになりました。
 彼とは、カブトムシ捕りをきっかけに仲良くなったのですが、受験勉強が忙しくなってからは次第に疎遠になっていました。
 そんな三人が、図書館帰りに出かけたプールで、事件が起こります。
 それをとおして、三人の絆は深まります。
 そして、ボードゲームのルールを翻訳するだけでなく、ゲームを実作することになります。
 プロジェクトが終了した日に、主人公たちは幼馴染の家で完成のお祝いをします。
 夏休みが終わって、三人はまたそれぞれの生活へ戻っていきます。
 主人公は、ひと夏の経験を通して、どのように変わったでしょうか?


 (下のバナーをクリックすると、スマホやタブレット端末やパソコンやKindle Unlimitedで読めます)。


トライアングル
クリエーター情報なし
平野 厚
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坂爪真吾「男子の貞操」

2016-11-04 08:23:52 | 参考文献
 ヤングアダルト向け作品を書いたり批評するための参考にするために、若い男性による性や結婚に対する新しい考え方を知りたいと思って読みました。
 正直言って、まったく期待はずれでした。
 一番の理由は、筆者が過剰なほど自信満々(なにしろこの本が古典になると自分で言っているほどです)で、自分たち(ホワイトハンズという性関連の社団法人で筆者は代表理事)のやっていることはすべて過剰なまでに正当化し、それ以外の事はあっさりと切り捨てているからです。
 本人も書いていますがホワイトハンズは非常に敵が多いそうですが、もう少し謙虚な姿勢を持たないと反感をかわれてもやむを得ないかと思いました。
 総じて、書き方が主観的で断定的で、客観的な視点が決定的に欠けているので説得力がありません。
 まず、権力や伝統に対して「お上」とういう言葉を使って一見反権力を装っていますが、実態は懐古的で過去の日本の結婚観や性に対しての批判は弱いです。
 まわりくどい書き方をしていますが、結婚による長期的な性的関係を維持することを正当としていて、それ以外の性的な行為(フリーセックス、不倫、性風俗産業、AV、アダルトサイトなど)はすべて完全に否定しています。
 一方で、どうしたらそういったパートナーを見つけられるかについては、若衆宿や見合いなどの過去の制度への懐古的な記述と共に、結婚相談所や結婚サイトなどを肯定しているのには驚愕しました(これらの産業も性や結婚願望を食い物にしている点では、性風俗産業や出会い系サイトなどと大差はないでしょう)。
 現在の若い世代を取り巻く貧困問題(就職難、大企業と中小企業の給与の格差、正規非正規雇用による格差、年金などの世代間格差など)には、この本は少しも触れていません。
 仮に若い男性が結婚相談所などに登録しても、登録されている女性たちのほとんどは経済的安定(最低でも年収六百万円以上の正社員)を結婚相手に求めているのです。
 現実には、この条件に合う二十代三十代の男性は4%しかいません。
 筆者は貧乏で結婚するコネ(紹介者)のいない人間は、結婚(つまりはセックス)するなというのでしょうか。
 また、男性のセックスの問題の解決を、この本では一方的に本人(男性)だけに求めていますが、女性側の意識(専業主婦願望、セックス=結婚など)の改革も必要なのではないでしょうか。
 筆者は、性風俗は危険(性感染症、恐喝など)なので、まともな若い男性ならば利用しないと簡単に切り捨てていますが、実際には若い世代でも利用している人たちは一定数いるのですから、それらの人たちが性風俗利用をやめる、あるいは安全に利用するにはどうすればよいかについてぜんぜん触れていないのは、それらの人たちに対する筆者の優越感の現れのように思えました(性風俗の通常の利用者は高齢者なので、若者なのにそういうものを利用している人たちのことは軽蔑していて読者対象としていないようです)。
 男性の生理として自慰の必要性を認めているのは評価できますが、その際にAVやアダルトサイトなどを利用することをジャンクヌードと呼んで完全に否定しているのは現状を無視していて説得力がありません。
 しかも、その代わりに筆者が推奨しているのが、彼ら(ホワイトハンズ)が実施している裸婦デッサン会とくると、笑い話のように思えてきます。
 ホワイトハンズの活動対象からきているのでしょうが、身体障碍者の性の問題については繰り返し述べられている(ただし具体的には書かれていない)のですが、それ以外の弱者(同性愛者、精神障碍者、性依存症など)への視点は決定的に欠けています。
 残念ながら、この本は筆者の意気込みどおりには古典になる事はないでしょう。
 そんな大上段に構えずに、自分たちの実践を紹介するという謙虚なスタンスで書いた方が、読者に好感をもたれたと思います。

男子の貞操: 僕らの性は、僕らが語る (ちくま新書 1067)
クリエーター情報なし
筑摩書房



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