現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

立花 隆「子殺しで発情する・ハヌマンラングール」サル学の現在所収

2016-11-23 09:48:23 | 参考文献
 インドで神の使いとして大事に扱われているハヌマンラングールというサルは、一夫多妻制の群れを構成しています。
 クーデターなどで群れを乗っ取った新しいオスは、その時群れにいた赤ん坊猿を皆殺しにするそうです。
 目的は、赤ん坊がいなくなると、メスが発情して交尾ができるからです。
 クーデター時に妊娠していてその後に生まれた赤ん坊猿は殺されないので、自分の血を伝えるためではなくたんなる性的衝動が理由のようです(他の種類のサルでは、その後に生まれる赤ん坊猿も殺されるので、種類によって異なるそうです)。
 このような子殺しは、サルの間では一般的に行われているようなので、生殖と性行為が分離されていないのが理由のようです。
 その点、人間は生殖と性行為が分離されているのでそのようなことが起こらないように思えますが、最近の男親(時には女親も)による虐待行為の多さを見ると、先祖がえりしてしまっているのかもしれません。 この場合、義理の子どもだけでなく実子に対する虐待も多いので、自分の血を伝えるためではないでしょう。

サル学の現在 (上) (文春文庫)
クリエーター情報なし
文藝春秋
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

沢木耕太郎「キャパの十字架」文芸春秋2013年1月号所収

2016-11-23 08:26:45 | 参考文献
 沢木自身も出演したNHKのドキュメンタリー番組の原作です。
 ドキュメンタリー番組の出来にはあまり感心しなかったので、原作はもっときちんとしているかと思って読みましたが、ここで明らかにされた事実はテレビ番組とほとんど変わらす、その意味では期待はずれでした。
 おそらく世界で一番有名な戦場カメラマンと思われるロバート・キャパが、スペイン内戦で撮影した有名な「崩れ落ちる兵士」の謎を追跡していく作品です。
 沢木自身がキャパに関する本を翻訳するほど、キャパには関心も造詣も深く、先行研究もよく調べてあって内容的には興味深いものでした。
 結論から言うと、この写真を撮ったのはキャパではなく、彼の恋人だったゲルダ・タローだったのではないかというのが、沢木の推定した結論でした。
 そのこと自体はすでに噂されていたことだったようなのですが、沢木は現地に何回も足を運び綿密に推理を組み立てていきます。
 その推論の過程はマニアックで、児童文学研究者(特に宮沢賢治研究者)にも通ずるものがあって面白かったです。
 しかし、問題は取材の方法にありました。
 沢木のアプローチの仕方が、あまりにも権威的すぎて好感が持てなかったのです。
 高価な資料もポンと買い(しかもアマゾンで)、予備調査も人にやらせ、世界各地に思いつくまま簡単に出かけていきます。
 NHKや文芸春秋という強力なバックを持ち、沢木自身もすでに有名なために、いろいろなコネクションを持っているので、取材が楽すぎるのです。
 かつての無名時代の沢木ならば、コネも金もないために取材に様々な困難が伴っていました。
 しかし、その困難を知恵と体力で克服して真相に迫り、読者もそんな沢木をつい応援してしまうところに、彼のノンフィクションの魅力があったのです。
 それが、今はすべてお膳立てされた上で、「沢木耕太郎」ブランドのノンフィクションができあがっています。
 ある意味、すでに「富と名声」を得てしまった者の「無残」を感じさせられます。
 これは別の記事でも書きましたが、最近の椎名誠にも同様の印象を持っています。
 沢木は、このノンフィクションの最後の方に、太平洋戦争後のキャパ(まだ31歳でした)は「余生」をおくっていたと書いていますが、それと同じ言葉を沢木に返したい気がします。
 いや、キャパはそんな「余生」に飽き足らず、インドシナ戦争に赴き地雷を踏んで40歳で死ぬのですから、沢木よりはるかに短い「余生」だったと言えます。
 このノンフィクションの最初のページには、おそらく編集者がつけたと思われる「世界が震撼するスクープ」、「渾身のノンフィクション」といった惹句が踊っています。
 昔の沢木だったら、こんな恥ずかしい「お飾り」は絶対に許さなかったでしょう。

キャパの十字架
クリエーター情報なし
文藝春秋

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする