現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

大江健三郎「小説の悲しみ」静かな生活所収

2018-04-25 09:08:57 | 参考文献
 主人公の女子大生マーちゃんの卒論(セリーヌの「リゴドン」についてです)の準備を中心にして、弟の浪人生のオーちゃんの予備校での模試の結果、障碍者の兄のイーヨーも含めたクリスマスの食事会を通して、小説(特に子どもの取扱い)の持つ悲しみについて、セリーヌやエンデの作品などを題材にして語られているので、児童文学、特に現在はあまりいないと思いますがシリアスな内容の作品を書こうとしている人には参考になります。
 ただ、一応マーちゃんの語りで書かれているのですが、この短編集の他の作品より父親(作者)の考えが色濃く表れていて、主人公たちの個性がかなり制限されているように感じました。
 また、上智大のフランス文学専攻の三年生と思われるマーちゃんや浪人生ながら東大理科二類(生物学者を目指しています)に合格確実と模試で判定されているオーちゃんは、かなり自在にフランス語や英語の原書を読みこなせるようで、ともすれば、読者には会話の内容がややスノッブな感じ(例えば、東大と書かずにただ理科二類とだけ書いてあります)に受け取られるかもしれません。
 それを、文中でオーちゃん自身が語っているように、障碍者であるイーヨーの企まざるユーモアが救っています。

静かな生活 (講談社文芸文庫)
クリエーター情報なし
講談社
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児童文学における時代設定と用語の関係

2018-04-25 08:31:57 | 考察
 かつては何刷も重ねて再版される児童文学の本が多かったのですが、現在では消費財化が進んで人気のあるエンターテインメントを除くと再版はおろか二刷さえ行われない本が大勢を占めるようです。
 そういった状況においては、普遍的な価値よりも現在の子どもたちにいかに読まれるかが、ますます重要になっています。
 そうした時には、作品の時代設定と作中に使われる用語との関係には、以前より気をつける必要があります。
 例えば、「出稼ぎ」という言葉は、二、三十年まえまでは、東北などの雪国の農家の人たちが、冬の農閑期に都会などへ働きに来ることを意味していましたが、今ではその意味で作品中に使っても、大多数の(特に都会の)子どもたちには通用しません。
 現在では、それらの労働を指す言葉としては、「出稼ぎ」よりも「季節労働者」の方が一般的に使われていますし、「出稼ぎ」という用語は、現代ではブラジルなどの南米や、フィリピンなどの東南アジアの人々が日本で働くことを指すことの方が多いようです。
 児童文学の場合、一般的に作者と読者である子どもたちが育った時代が違うことが多い(特に作者が高齢になるにつれてそれは拡大します)ので、用語ひとつをとっても、その両者が意味を共有できることに注意をはらう必要があります。


出稼ぎ日系ペルー人の127日 日垣隆短編コレクション
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銀河系出版
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