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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

次世代DVDの、気勢の上がらない船出。

2006-04-06 18:57:20 | 映画周辺のネタ
 佐々部清監督の「陽はまた昇る」は、VHSフォーマットを開発した日本ビクター従業員の活躍を描いた実録映画で、泥臭いながらも正攻法の演出により観る者に感銘を与えた。ただしこの件を消費者サイドから見れば、果たして“ビクターの技術陣は立派だった”と片づけて良いものか。

 何でも、VHSが出る前は家庭用VTRの仕様はベータで一本化される見通しだったらしい(よく知らんけど ^^;)。映画の中でもベータに執心する当時の通産官僚とビクター幹部の“対決”がハイライトになっていたが、考えてみれば通産省の“一本化すべし”という主張に限っては正当性があったと思う。VHSフォーマットが世に出たおかげで、市場にはまったく互換性のない二つの仕様の機器とソフトが並ぶことになり、やがて“市場原理”によってVHSに軍配が上がるまで、ベータを選んだ少なくない数の消費者はバカを見ることになった。まあ、出始めのベータが長時間録画や機器のコンパクト化の面でVHSに後れを取っていたことは確からしいが、通産省はそこで両者に歩み寄らせて一本化させるという方法を探るべきではなかったのか。いずれにしろ、供給側の勝手な都合により消費者が振り回される事態だけは避けねばならなかっただろう。

 さて、去る3月31日に、東芝がHD-DVDのプレーヤーを発表した。一方の仕様であるブルーレイを見据えての見切り発車的なリリースだが、HD-DVD方式のソフトは一枚も発売されておらず、今後発売日が確定しているソフトも10タイトルに満たないという。発表会の席上では東芝の幹部はブルーレイ陣営への敵意をあらわすばかりで、消費者に対する“これからの映像文化と生活”みたいな前向きの提案は一切なかったらしい。

 たぶん今年末には国内向けのブルーレイ方式のプレーヤーも発売されるはず。その時にもやっぱり対HD-DVDへの牽制に終始してしまうのだろう。結果、VTRと同じくまったく互換性のない方式が二つ同時に世に出ることになり、混乱するのは消費者の側だ。

 別に、二つ以上のフォーマットが同時に市場に出ること自体は珍しくもない。次世代音楽ディスクではSACDとDVDオーディオが併走しているし、DVDが出る前のLDの黎明期にはVHDというもう一つの方式が存在していた。しかし、いまだマニア向け商品でしかない次世代音楽ディスクや、性能が違いすぎたLDとVHDの世界とは今回の件は違う。確かな需要が見込めるハイビジョン用ディスクのマーケットで、おそらくはスペックにあまり差のない二つの方式が、メーカーの都合で勝手に覇を競ってもらっては消費者としては困るのだ。

 こんな状態を見るにつけ、日本の大企業ってのは目先のことしか考えなくなったのだなあと、つくづく思う。互換性のない複数のフォーマットが同時発進すれば、ユーザー側は買い控える。家庭用ビデオが普及していなかった80年代半ばまでは、VHSだろうとベータだろうとVTRそのものに対する需要は大いにあった。しかし従来型DVDがこれだけ普及している現在、ここでハイビジョン用を売ろうという段になって“自分の買った方式は、いずれ消え去るかもしれない”という疑念を消費者に与えてしまっては、中長期的にはマイナスだ。プレーヤーだけでなく、DLPプロジェクターやAVアンプといった関連機器の売れ行きにも悪影響を与える。

 まあ、すでに二つの方式が出てしまったのだから、今更“統一方式を!”と言っても仕方がない。今後は、できるだけ早い時期に互換性を考慮した解決策を打ち出すことだ。たとえばHD-DVDだろうがブルーレイだろうが、ディスクを入れさえすればプレーヤー側で勝手に判別して正常に再生できるような、そういう簡便なユーザー・インターフェースを確立するメーカーこそが真の“勝ち組”と呼べるだろう。どっかのサイトで見たが、すでに韓国LG社が互換性をクリアしたプレーヤーの発売を見込んでいるとか。その点で日本のメーカーは“負け組”にならないように精進してもらいたい。
コメント
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