(原題:L'Enfant)2005年のカンヌ映画祭の大賞受賞作だが、ダルデンヌ兄弟監督作品としては前作の「息子のまなざし」の方が断然優れている。あのドラマティックな展開と素晴らしいラストシーン、何より登場人物の切迫した信条を如実にあらわしているカメラワークは、まさに孤高のクォリティを誇っていたと思う。
対して本作は漫然とした展開と読めるラスト、映像造形もさほど工夫がなく、ハッキリ言って出来としては平凡だ。
恋人に無断で生まれたての我が子を売る若い父親の姿を通して、荒涼とした世相を切り取ろうとしたことは分かる。特に日常のすぐ近くに人身売買組織が暗躍するという構図には慄然とさせられる。ただし、その“世相を描く”というスタンスを取った時点で興趣は後退するのも確か。映画作家たる者、テーマを映画の中で練り上げるべきであって、“世相”という“映画の外”の対象物に必要以上に寄りかかるべきではない。
ならば映画の登場人物に単純な“世相の紹介”という次元を乗り越えるだけの存在感があるかというとそれも心許なく、ジェレミー・レニエ扮する主人公にもそのガールフレンドにも、状況に振り回されるだけの軽薄さしか感じない。周りの登場人物も“ただ存在しているだけ”である。
救いは上映時間が短いことだろうか。このタッチで2時間以上もやられては観ていて辛い。
質的には前作より後退しているが、こういう賞レースは対象作が万全の出来であるとは限らないことを示している。同じ作家の他作品の実績を勘案しているところも多分にあるのだろう。