(原題:The Bank Job)なかなか痛快なクライム・ストーリーだ。71年にロンドンで実際に起こった王室スキャンダルに関わる銀行強盗事件を元にしているが、何より注目すべきは設定の巧者ぶりである。
金に困った中古車販売業者(実行犯)とその仲間、彼らに話を持ちかける女のバックに付いている英国情報部、王室スキャンダルを握っているマフィア、金庫に保管されている裏台帳の持ち主である風俗業者と暴力団、別のスキャンダルが発覚することを恐れる政治家、そしてもちろん所轄の警察と、三つ巴どころではない多士済々の勢力が暗躍し、こいつらの思惑が複雑に絡み合うのだから、観る側には一時の油断も許させない。
さらには主人公の妻とくだんの女との確執まで描かれるのだからさぞかし“交通整理”が大変かと思いきや、そこは海千山千のロジャー・ドナルドソン監督、まさしく“グッド・ジョブ”な職人芸で全編をスマートにまとめてしまう。テンポ良く突っ走るかと思うと、リズムをあえて抑えたシークエンスもあったりして、まさに緩急自在である。上映時間も110分と、意味もなく長くはない。
主演のジェイソン・ステイサムにはきっちりと得意のマーシャル・アーツを披露させる余裕まである。また、犯人達の手口が金庫室の下までトンネルを掘るというのが古風で嬉しい。往年の「掘った奪った逃げた」や「大脱走」などを彷彿とさせる。途中で“遺跡”まで発掘してしまうのだから、さすが歴史の深いロンドンが舞台だけのことはある。科白回しもハードボイルドを地で行くカッコ良さだ。
そういえば70年代という時代設定もロンドンならば大掛かりな舞台セットを組まずとも、そのまま結果オーライなのが興味深い。地下鉄の描写なんか、今も昔も全然変わっていないと思わせる。マイケル・コールターのカメラによる、寒色系の画調も効果的だ。
昨今のハリウッド製活劇みたいに、何から何まで説明してもらうような作劇に慣れた観客にとってはひょっとしてハードルは高いのかもしれないが、手練れのサスペンス映画好きにとっては堪えられない快作だと言えよう。それにしてもあっちの王室は奔放なんだね。周りの者は少しも気が抜けないだろうな(笑)。