元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「天国はまだ遠く」

2008-12-23 06:53:38 | 映画の感想(た行)

 たとえ死ぬほど悩んでいても、他人から見ればその悩みも大したことではない場合がある。反対に、端から見ればマイペースを絵に描いたような余裕たっぷりの人生を送っていても、人には言えない屈託を抱え込んでいるケースだってある。とにかく人の心は玄妙なものだ・・・・といった一見語るに落ちるようなテーマを斜に構えずに丁寧にすくい上げた、観る者の共感を呼びこむ佳篇である。

 失恋して仕事にも行き詰まり、自ら命を絶つ場所を求めて田舎町を訪れた若いOL。そこで出会ったのが、一人で民宿を切り盛りしながら自給自足の生活を送る青年。自殺が未遂に終わり、民宿に長期滞在することになった彼女と、悠々自適の毎日を送っているようでどこか影のある男との奇妙な共同生活を追う、瀬尾まいこの同名小説の映画化だ。

 面白いのは、よくありがちな“いつしか二人の間に恋心が生まれてどうのこうの”という展開には持って行かないこと。あくまで彼女は民宿の客であり、彼はそこの主人である。その距離感が的確だ。また、図式的な“都会は世知辛くて田舎は人情味があって良い”といった単純な構造も採用していない。周りの人間関係が変化することによって普段は気付かない自分の一面が垣間見えただけで、それが今回たまたま田舎の方だったという話だ。

 こういう“自分探し”をネタにした映画は変にベタついたり説教臭くなりがちなのだが、本作には扇情的なタッチは微塵もない。監督の長澤雅彦にとっても最良の仕事になったはずで、少しでもウェットな感触に近づくと巧みにそれを回避し、ユーモラスな方向に振っているのは実に納得できる。またその分ラスト近くのドラマティックなシークエンスが強く印象づけられることにもなった。

 これが映画初出演になる徳井義実は演技が硬いのは仕方がないとしても、なかなかの朴訥かつ頼りになる存在感を発揮している。やっぱりコメディアンはパフォーマーとしての基礎も出来ているのだろう。ヒロイン役の加藤ローサも好演だ。いかにもハーフという外見からか内面に踏み込んだ演技は苦手のように思われたが、今回はそれを逆手に取ったような“優柔不断でノンシャランな雰囲気”を造出するのに成功している。また、自分のオデコの前髪をふーっと吹くシーンなどは可愛らしい。今後は天然系若手コメディエンヌとしての道を歩んで欲しいものだ(笑)。

 舞台となる京都府宮津(天橋立の近く)の、秋から初冬にかけての風景は素晴らしい。民宿で出される料理も本当に美味しそうだ。ゆったりとした方言と時折現れる吉本興業の面々には楽しませてもらった。エンド・クレジットが流れた後のラストシーンは秀逸。春になれば二人の新たなストーリーが始まるのだろう。生きていれば必ず良いことがある。天国はまだまだ遠い(^^)。
コメント
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