元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ラブファイト」

2008-12-04 06:34:06 | 映画の感想(ら行)

 脇役の一人であるはずの大沢たかおが製作総指揮まで担当していることが最大の敗因だ。小さい頃から弱虫で、今もイジメられてばかりの男子高校生。彼の“守護神”みたいになっている、幼なじみでケンカのやたら強い女の子。そして彼を憎からず感じている思い込みの激しい女生徒。彼らが織りなす“三角関係(みたいなもの)”を中心に展開するハジケた感じの学園コメディかと期待したが、それはすぐに裏切られる。

 彼が強い男になろうと一念発起して入門するボクシングクラブの会長役で大沢が登場すると、途端に映画のヴォルテージが急降下してしまう。実はこの映画、主人公は大沢であるらしい。しかもその筋書きたるや冗長を絵に描いたような脱力ぶりである。

 若い時分には世界チャンピオンを狙える位置にいながら、新進女優との色恋沙汰で挫折。その屈託をダラダラと見せられた挙げ句、中盤にはくだんの“昔の彼女”(桜井幸子)が登場して、現在の冴えない境遇と大沢への未練が、これまた退屈極まりないタッチで語られる。果ては大沢をリングに立たせて八百長ドキュメンタリーで目立とうとするボクサー崩れの若い男優との確執が、意味もなく沈んだ雰囲気で映し出されるに及び、映画の方向性が完全に失われていると見限らざるを得なかった。

 高校生のドラマに見せかけて、自己陶酔的なモノローグもどきで映画を私物化している大沢の根性の腐り具合が、たまらなく不愉快だ。若い俳優達には“こんな大人になってはダメだぞ!”という反面教師になったのではないだろうか。成島出の演出にもまるで精彩が無く、こういうネタにしては長い2時間を超える上映時間に、終盤近くには面倒くさい気分になってしまった。

 唯一の収穫がヒロイン役の北乃きいの奮闘。ヘタレ男子高校生の林遣都や、彼にモーションを掛ける女子に扮する藤村聖子の演技は、まったく注目するに値しないが、北乃だけは違う。「幸福な食卓」で彼女を初めて見たとき、可愛くて演技力はあるが他の若手女優達に比べるとルックス面でのインパクトに欠けると思ったものだ。ところが本作では“顔で目立てないのならばアクションで勝負!”とばかりに、程度を知らない大暴れで観る者の度肝を抜く。特に、前のめりで突き出す連続パンチと切れ味鋭い回し蹴りは、本物の活劇女優としての資質を垣間見せる。実に面白い個性で、今後も出演作を追いかけたくなる人材だ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする