(原題:SWEET SIXTEEN )2002年作品。ケン・ローチ監督の真価が発揮されるのは、この作品のように子供や若者を主人公にして低所得者階層の家族を描く時である。舞台は英国グラスゴー近郊にある小さな港町。家族の愛を知らずに育った15歳のリアムは学校へも行かず、仲間とつるんでのタバコの闇売買で暮らしている。彼の夢は服役中の母の釈放後に姉とその息子の4人で暮らすこと。だが新しい家を買うために危ない橋を渡り、マフィアがらみのトラブルに巻き込まれてしまう。
主人公リアムは街のボスにも見込まれるほどのドラッグディーラーとして成り上がってゆくが、彼は野心などさらさらなく、ただ服役中している母親が出所したら一緒に暮らしたいという夢を持っているに過ぎない。アウトローな日常と少年らしい純粋な内面との落差が、主人公達を取り巻く過酷な現実を浮き彫りにする。
ラスト近くではやっと手に入れた彼のささやかな幸福が、無慈悲に崩れ去ってゆく様子が冷徹に描かれるが、この筋書きが観ている側にとっては意外でも何でもなく、予定調和にさえ思える事自体が哀しい。冒頭の、リアムがヤクザな祖父や母の愛人に邪険にあしらわれる場面から、すでに苦い結末は約束されていたのだ。主人公が幸せになるためには、彼の姉のように実の母親を見捨てなければならないという皮肉。この運命の理不尽さには身を切られる思いである。
リアム役のマーティン・コムストンは素人同然らしく演技が硬いが、それが逆にこの作品では効果的だ。それにしても、80年代のサッチャーによる“改革”は“英国病”の表面上の克服はもたらしたもの、この映画で描かれるような貧民層を増大させたことに今さらながら暗然とする。我が国がその二の舞になってはならない。